音声のみの武豊ジョッキーカメラが再生回数100万回突破
日々トレセンや競馬場などで取材を続ける記者がテーマを考え、自由に書く東西リレーコラム「書く書くしかじか」。今週は東京本社の出田竜祐(44)が担当する。10月27日にYouTubeのJRA公式チャンネルで公開された天皇賞・秋の武豊のジョッキーカメラが再生回数100万回を突破。画面がほぼ真っ暗になる緊急事態を乗り越え、公開にこぎ着けたスタッフたちの舞台裏に迫る。 騎手目線の映像でG1レースの迫力を伝えるジョッキーカメラ。天皇賞・秋で衝撃Vを飾ったドウデュースの動画が、公開から3日で100万回再生を突破した。しかしこの動画、画面の大半が真っ暗でほとんど何も映っていない。スタート後まもなく武豊のヘルメットに取り付けられたカメラに、前の馬がはね上げた泥がこびりついたのだ。 JRAのウェブサービス課によると、実は武豊のカメラに内蔵されたマイクロSDカードが、泥の付着などが原因で損傷。データが取り出せない状態になっていたという。復旧作業を経て、映像を確認できたのはレース終了から約3時間後の午後7時ごろ。だが、“中身”は真っ暗。「現場(東京競馬場)の雰囲気から、武豊騎手とドウデュースの勝利にお客さまの熱が高まっていることは感じ取っていただけに、録画映像を見た時はがくぜんとしました」と当時を振り返る。 とはいえ、ドウデュースがG1の勝ち馬史上最速となる上がり32秒5という圧倒的な脚力で他馬をねじ伏せた競馬史に残るレース。「そのまま公開することは難しいものの、公開しないという選択肢はないと思っていました」(同課)。残っていたのは時速約70キロのスピードで駆け抜ける音、そして、武豊がゴール直後に漏らした「凄いよ、この馬。楽に届いた」という声。その「音声」に懸けた。 人馬の一連の動きをわずかでも理解してもらうべく、レース映像を取り寄せ、画面左上に挿入した。ファイル破損による音のずれを修正し、動画後半は別のカメラに切り替え、ウイニングランの様子など“特典映像”でつないだ。午後9時過ぎにようやく公開された動画は視聴者から高評価の嵐。同課は反響に喜びを示し「23年皐月賞(ソールオリエンス×横山武)でも、泥のせいで音声のみのお届けとなりましたが、当時のお客さまの反応から“音声”の重要性は認識しておりました」とコメント。 ジョッキーカメラは川田将雅の提案で23年春から導入された。平均再生回数は約65万回。歴代最高は23年有馬記念(ドウデュース×武豊)の約255万回、2位は23年桜花賞(リバティアイランド×川田)の約222万回となっている。天皇賞・秋の動画はスタッフたちの知られざる奮闘の結果、20日現在で約117万回を超えた。同課は「レース中の蹄音、風を切る音や、レース後の騎手、厩舎関係者のコメントなどは、通常のレース映像では味わうことはできません。そういったところを楽しんでいただければと思います」と話している。 ◇出田 竜祐(いでた・りゅうすけ)1980年(昭55)9月29日生まれ、熊本県出身の44歳。明大卒。05年スポニチ入社。文化社会部、静岡支局を経て13年4月からレース部。ボートレース、競輪、オートレースを渡り歩き、今年10月から競馬担当。ギャンブル競技“グランドスラム”達成。