30年続けた『とくダネ!』笠井信輔(60)「若いときは睡眠削って、ガムシャラに」でつかんだもの、失ったもの
帯番組だと、どんな大失敗をしても、翌日も出演しなくてはいけない。言い間違いや原稿をかんでも、いつまでも引きずらず、心機一転させる必要があります。 もちろん、情報を伝えるのは非常に大事な仕事です。失敗した際、反省は欠かせません。とはいえ、落ち込みすぎると、心を病んでしまうんです。アナウンサーは周囲から多少何か言われても気にしない「鈍感力」が、ある程度ないと務められない仕事だと思います。 ただ、あまり鈍感すぎると、スタッフや視聴者が離れていきます。周囲を気づかう細やかさと、多少のことではへこたれない精神力の両方が必要だと思います。
── アナウンサーとして情報を伝える際、心がけていたことはありますか? 笠井さん:「喜怒哀楽を大切にすること」です。「喜び」と「楽しさ」の部分は視聴者の方から共感を得やすく、アナウンサーも表現しやすいです。でも、「怒り」や「悲しみ」は、あらわにしすぎると「感情的すぎる」と批判されてしまう。 それでも私は、悲惨な事件の現場や怒りが渦巻くような局面に立ち合ったとき、自分が抱いた悲しみや怒りをあえて表現していました。そうすることで、視聴者の方に現場の臨場感が伝わったのではないかと考えています。
最近のアナウンサーは、どんなことでも整った形で伝えようとしているというか、皆、報道スタイルが似ているように思います。後輩を指導するときは「個性を大事にしていい」と伝えていました。 私のように感情を伝える方法でもいいし、それ以外の方法でもいい。模範的なやり方をめざすのではなく、自分なりの方法を模索したらいいんだと思います。
■泥臭い仕事も大事だけど「際限なく働くのもダメだと」 ── 後輩アナウンサーの指導もされていたとのことですが、世代の異なる後輩と接する際、感じたことはありますか?
笠井さん: いまの若い人は、優しくて繊細な子が多い印象です。空気が読めて優秀な一方で、すぐに心が折れやすい気がします。できるだけ叱らないよう、丁寧に指導していました。 私たちの時代のアナウンサーは、ときには長時間張り込んで当事者の声を聞くなど、取材の機会が多くありました。華やかな職業だと思われがちですが、泥臭い仕事も多いんです。 若い人たちは「地味な仕事は生産性がない」と嫌がる人が少なくありません。目立たない部分での努力も必要だと若い人に理解してもらうには、苦労しました。