今春から始めた短歌作りに「こんなにハマったことはない」と話す谷口菜月アナウンサー

　フリーの谷口菜月アナウンサー（33）が今年春から知人のすすめで始めた短歌作りで次々に新聞社や「NHK短歌」（Eテレ日曜午前6時）の歌壇で入選を重ね、特選もこれまで7首に及び、短歌の才能の開花ぶりに周囲を驚かせている。谷口アナは「アナウンサーを続けながら何かしらのきっかけで歌人・谷口菜月を名乗りたい」と語る。半年余で急成長を遂げさせた短歌の魅力と短歌作りの秘訣（ひけつ）を谷口アナに聞いた。（三橋正明） 　「文学少女でもなく、まったく短歌とは無縁だった」という谷口アナは大阪大外国語学部出身で、卒業後は富山のチューリップテレビでキャスター、報道記者を務め、現在はFMヨコハマで月～木曜午前中のニュースアナウンサーなどを担当している。

さまざまな参考資料を前に短歌の魅力を語る谷口菜月アナウンサー

　短歌を始めたのは短歌を作っている知人に「やってみない？」と誘われたことだった。「試しに作ったら、ほめられて調子に乗ってしまい、新聞社の歌壇に投稿したら何と入選！」。3月末に初入選し、5月には東京新聞（中日新聞東京本社発行）の「東京歌壇」にも掲載された。「初投稿、初入選。これがきっかけで以来、投稿を続けるようになった。ここまでハマったのは初めてでした」 　これまでに東京、毎日、日経、産経の各新聞社とNHKの歌壇に入選したのは31首。うち7首は特選と、一部では知る人ぞ知る存在に。 　元々、動植物、昆虫に関心があり、もらった原稿を読むニュースの担当に収まらず、自身で神奈川県内を取材してネタを番組で放送し、独自の話題を提供してきた。「短歌の先輩に『短歌作りには植物図鑑などを用意した方がいいよ』と言われたが、全部持ってました（笑）」と振り返る。 　「短歌の魅力は、この無限な世界をいろんな形で切り取れること。目の前のものをいとおしみ、切り口を考える。心が動く瞬間があって、それをクリアにカットして短歌に詠（よ）むんです」と強調。「自分は現場を大事にしたいので机上で詠む作品より現場で見たものを歌にしたい」と〝現場主義〟を貫くのが〝谷口流〟のようだ。 　いくつか作品を紹介しよう。 　奄美の山に白い蛍と星が降るわれらは「さよなら」をもつひかり（毎日新聞、伊藤一彦選、特選一席） 　低音と高音がゆるし合ひ、やがて朧めく雨の日の噴水（産経新聞、小島ゆかり選、特選一席） 　唐突にやさしくされると怖いんだ平らに変わるエスカレーター（「NHK短歌」、大森静佳選、入選） 　谷口アナは短歌のためのXのアカウントも開設。「入選を目指すものでなく、気軽なつぶやき短歌の楽しみを広げたいと考えた。私を起点に番組リスナーからも反応があり、より短歌を身近に感じてもらえれば」と呼びかける。 　今後、短歌作りの有志が集まる「短歌結社」への入会も検討中という。「『一首作れば歌人』と声をかけてくれる人もいますが、まだ歌人とは名乗れない。何かきっかけを得て『フリーアナ＆歌人』として踏み出したい」と新たな作品づくりに日々取り組む。 　「歌人・谷口菜月」誕生も近そうだが、「いつか新年の歌会始に応募して選に入りたい」と夢も膨らむ。