米国大統領選で「米国第一」掲げるトランプ氏勝利、県内経済へどんな風吹く? 交錯する期待、警戒
米大統領選で「米国第一」を掲げるドナルド・トランプ前大統領の勝利を受けて7日、輸出に取り組む鹿児島県内の企業からは、関税引き上げを警戒する声が上がる一方、円安進行への期待も聞かれた。 【写真】米国向けの農林水産物で主力となっている牛肉。鹿児島県も輸出拡大へPRに力を入れる=10月下旬、米カリフォルニア州(県提供)
米国は鹿児島県内の農林水産物の最大の輸出先。2023年度の輸出額367億円のうち、米国向けが170億円に上り、中でも6割強を養殖ブリが占める。 水産物の養殖・加工を手掛けるグローバル・オーシャン・ワークスグループ(垂水市)は、グループ総売り上げのうち約4分の1が米国向け養殖ブリで、鮮魚の輸入卸をする現地子会社の売り上げなども含めると米国関連で8割に達する。 田島康臣社長室長(45)は「経済対策が今後どうなるのか読めないが、関税が強化されたり外食産業が冷え込んだりすれば、厳しい状況になる可能性もある」と動向を注視する。 牛肉も米国向けの主要品目だ。ナンチク(曽於市)輸出促進部の坂元秀明部長(48)は「自国の保護のためには手段を選ばない印象がある」と警戒する。同社の輸出牛肉の3~4割は米国向けで、高級部位のロイン系を中心に順調に伸びてきた。「富裕層メインとはいえ、関税が引き上げられ売価が高くなれば買い控えが起きかねない」
一方で、有機抹茶などを主に米国へ輸出するヘンタ製茶(霧島市)の邉田孝一社長(62)は「円安が進めば追い風」と話す。トランプ氏優勢の報道があった6日、外国為替市場では一時、円相場が1ドル=154円台まで値下がりした。「前回のトランプ政権時もさほど輸出には影響がなかった。米国の景気が良くなれば仮に関税が上がっても10%くらいまでなら何とかなりそう」と受け止める。 九州経済研究所(鹿児島市)の福留一郎経済調査部長は「円安は輸出にプラスだが、輸入原材料費の上昇など鹿児島にとってマイナス要素の方が多いだろう」とみる。その上で「これまで通り現地の情報を的確に捉え、柔軟に対応していくことが重要だ」と指摘した。 また、トランプ氏は国内産業の保護を目的に、日本を含む外国からの輸入製品に10~20%の関税を課すことを掲げた。製造業関連企業の受け止め方はさまざまだ。 浜田酒造(いちき串木野市)の浜田雄一郎社長=県酒造組合会長=は「酒類が対象となるかは不明だが、もし引き上げられれば売れにくくなる」と懸念する。焼酎の知名度は海外ではまだまだ低く、日本の「伝統的酒造り」の国連教育科学文化機関(ユネスコ)無形文化遺産への登録勧告を市場開拓の追い風にしたいと考えていた。浜田社長は「米国は世界の情報発信拠点。これからも重視することは変わらない」と話す。
粉粒体供給機を製造するヨシカワ(薩摩川内市)の吉川修会長は「仮に大きな関税がかけられても今は円安傾向。競合他社の参入も考えにくく期待も不安感もない」と冷静に受け止める。米国に販売代理店を持つが売り上げは全体の数%にも満たず、4年前のトランプ政権下でも販売に支障はなかったという。 医薬品開発受託の新日本科学(鹿児島市)は、米国をはじめ海外受託が好調。為替レートは本年度、1ドル=145円を想定する。円安に1円振れると売上高で5200万円、営業利益で1300万円プラスに働くという。 IR広報統括部の岩田俊幸部長は「海外事業の比率が上がっており、今後の為替相場への影響を注視する」と話した。
南日本新聞 | 鹿児島