実は農業が盛んな港町・神戸で、土と生きる喜びにあふれる次世代のファーマーたち[FRaU]
六甲の山に抱かれるように広がる神戸のまち。山は野菜の育つ土壌を育み、豊富な水を与え、その水はまちを潤し、酒づくりにひと役買いながらやがて海へとたどり着きます。その過程のなかで出会った、この土地のさまざまな風土がつなぐ人びとの話をご紹介します。
六甲の山から生まれる「畑」 for Vegetables
中心部の三宮から異人館街へとまっすぐ延びる北野坂。その中腹に神戸市の農水産物や加工品などを扱う〈FARMSTAND〉はある。丹波や但馬、淡路を擁する兵庫県はたしかに農業がさかんだが、洒脱な都会の港町・神戸に農家や漁師がいるのだろうか……。 「あまり知られていませんが、近畿の政令指定都市のなかでも、神戸はトップクラスで農業や漁業がさかんです。でも、市民ですらそれに気づいていないのが現状」
そう話すのは、〈KOBE FARMERS MARKET〉を主宰する小泉亜由美さん。神戸市内の生産者と消費者を結ぶことを目的に2015年にファーマーズマーケットをスタートし、よほどの悪天候でもない限り、8年間毎週土曜日に開催してきた。しかし、「週末に足を運べない」という市民の声に応え、北野坂に常設のリアルショップを誕生させた。
ツヤツヤと元気な顔で居並ぶ野菜の奥にはイートインスペースがあり、「神戸野菜の日替わりランチ」がいただける。この日は青菜とお麩のチャンプルー、茄子の田楽など彩り豊か。そこへ大きなお椀になみなみと注がれたスープがつく。
「うちは委託販売ではなく、責任をもって販売するため農家さんからすべて野菜を買い取ります。2~3日して売れ残ったらランチやジュース、瓶詰にして、食料廃棄はずっとゼロ。野菜の皮はスープのだしに、搾りかすは土に還すようにしています」 そんな話を聞いたせいか、食後はとてもすがすがしくなった。食べることで私も生産者を応援できる。だからこれは「おたがいさま」で「おかげさま」。そんな気づきを私にくれた神戸の農家に会いたくなった。
神戸市北区淡河町。三宮から車でわずか30分のところに、茅葺き屋根が点在する農村地帯が現れる。この地に2020年に開校したのが、ファーマーズマーケットから派生した〈マイクロファーマーズスクール〉だ。 「生産者が毎年減少するなかで、少しでも自分の生業に農業を取り入れてもらうのがこのスクールのねらいです」と小泉さん。スクールは月2回の授業が1年間と、それに平行して自主的な畑の管理が3年間。すぐに仕事をやめられない人へも農業への門戸を開いた。 卒業後は、農業と他の仕事を両立する人、農業一本でそのまま突き進む人、「農家なんて絶対ムリ!」とリタイアする人もいる。「でも、それでいいんです」と小泉さんは言う。農業の大変さを少しでも知ることで、野菜の価値を理解して適正価格で購入する“よき消費者”になるからだ。