スティーブン・サンチェスが語る、Z世代が1950年代のロマンスとロックンロールに魅了される理由
いにしえの音楽が若い世代に響く理由
―あなたの思い描くストーリーによると、「Until I Found You」は1958年に生まれた曲で、アルバム『Angel Face』は1964年の物語であるそうですね。まずはアルバムのコンセプトについて、改めて聞かせてください。 サンチェス:ああ。はじまりは1958年。TVショー「The Connie Co Show」でデビューを果たし、50年代に名を揚げた有名なトルバドゥールについての物語なんだ。彼はバンド「The Moon Crests」と共に音楽活動を始め、知名度を高めていく。そして1964年、彼はマフィアのボス、ハンター(Hunter)が経営しているクラブ「The Angel Club」でレジデントを務めることになる。トルバドゥールはそこでハンターの恋人、エヴァンジェリン(Evangeline)に出会い、恋に落ち、ひそかに愛を育む。これに気づいたハンターは、トルバドゥールのファイナルショーのステージ上で、彼を殺してしまうんだ。 ―50年代や60年代の音楽に、あなたはなぜそんなに惹きつけられるのでしょう? サンチェス:率直なところかな。体裁なんか気にせず、言いたいことをストレートに伝えている。そういうところが好きなんだ。例えば、もし僕が君のことをどう思ってるか伝えるために、君に50曲を送るとしよう。それで僕の気持ちを取りこぼすことなく伝えられると思う。 ―その時代におけるヒーローを挙げるとしたら? サンチェス: ロイ・オービソン! ―ああ、先ほどのライブで「Oh, Pretty Woman」をカバーしてましたね。 サンチェス:彼の影響はかなり受けている。偉大なアーティストであり、すばらしい声と作曲のスキルの持ち主。すべての作品に彼らしさが一貫していて、大好きなんだ。 ―あなたの曲を聴くとロマンティックでノスタルジックな気分にさせられます。その2つは自分の音楽にとって重要な要素といえるでしょうか? サンチェス:ロマンスは大きな要素だね。でも、リアルなストーリーを語ることも僕にとっては大切なこと。リリースしてきた作品は、僕の歩んできた人生や正直な気持ちがテーマになっていて、そこに少しフィクションを織り交ぜて形になっている。僕が作曲において大事にしてるのは、明快さ、それに自分に正直であること。 ―では、ロマンス以外に、自分の音楽にとって大事な要素を挙げるとしたら? サンチェス:歌詞はすごく大事だよ。つまり、何が語られているか。そういったスタンスって今の僕らのカルチャーから失われつつある。言いたい放題なんでも口にしてさ。それがうまく作用しているかといえば、そういうわけでもない。少なくともアメリカではね。ポジティブさ、希望、つながりを大事にするには、何を意図した発言なのか、もっと言葉の細部に気を配るべきだと思ってる。 ―レイヴェイとのデュエット曲「No One Knows」も素敵ですね。 サンチェス:彼女はすばらしいアーティストだ。一緒に曲を作れてほんとに楽しかった。ステージで共演できればいいなと思ってるよ。 ―あなたもレイヴェイも、過去の音楽に魅了され、同世代やもっと若い世代にその魅力を伝える役割を果たしているように思います。なぜ古い音楽のエッセンスが、当時を知らない若い世代に説得力をもって響くのだと思いますか? サンチェス:昔の世代の人たちは当時の曲に愛着を持っていて、現代の音楽には、少しばかり抵抗を感じていると思う。きっと響かないんだろうな。今語られていることは、当時ほどの重みを持っていない。(古い音楽の)ああいった単刀直入な表現や独特なスタイルは、若い世代には馴染みがない。だからこそ惹かれているんだ。とにかく違う……そう、ユニコーンだ。馬の群れで異彩を放つユニコーンみたいだ。
Toshiya Oguma