トヨタが掲げる「マルチパスウェイ」ってなに? その意味と特徴、強みを知る
BEV一択の“脱炭素”に異議あり
最近、自動車関連の報道で“マルチパスウェイ”という言葉を見聞きすることが増えた。 いま自動車業界が直面している最大の課題はいうまでもなく“カーボンニュートラル(CO2排出実質ゼロ化)”である。世界中の多くの国や地域が、なんとかバッテリー電気自動車(BEV)を普及させようと苦心しているのも、(もちろん国家的な経済戦略の意味もあるが)少なくとも原理原則としては、カーボンニュートラル化して地球の気候変動を抑止しようという目的のためである。 【写真】いまさら聞けないマルチパスウェイの意味と意義、そして全世界が注目する両メーカーの動向を解説。マルチパスウェイに関連する写真をもっと詳しく(14枚) 世界がすべてBEVになれば、その瞬間に、クルマから排出されるCO2はたしかにゼロとなる。また、エンジン(内燃機関)を搭載しなければ有害な排ガスも出さなくなり、さまざまな排ガス規制もすべて不要となる。クルマの環境規制当局からすれば、そこですべての仕事が完遂される。まさに理想の実現だ。 しかし、BEVはCO2を直接排出することはないが、バッテリーの製造工程まで含めると、車両1台を生産するためのCO2排出は純粋なエンジン車より多いともいわれる。バッテリーに使われるリチウムの生産工程では鉱石を炉内で燃やす際に大量のCO2を発生するし、バッテリー生産工程は電力消費も多い。また、BEVを走らせる電力に火力発電などが使われていれば、そもそもCO2排出ゼロとはいえないのではないか……。 そうした現実を踏まえて、BEV一択のカーボンニュートラル論議に対する、もうひとつの考えとして存在するのがマルチパスウェイである。マルチパスウェイ=Multi Pathwayを直訳すると“複数の小道”となる。 カーボンニュートラルという実現するための手段=道は、なにもBEVの1本だけではない。というか、先述の製造工程や発電の現実、あるいは思いどおりにいくとはかぎらないBEVの普及速度を考えると、BEVだけでは逆にカーボンニュートラル化が遠のく可能性もある。BEVに加えて燃料電池車(FCEV)、エンジン車、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、水素エンジン車など、あらゆる手段=複数の小道を使うのが、総合的なCO2排出を減らしてカーボンニュートラル化に向かう本当の意味での早道ではないか……というのが、マルチパスウェイのココロだ。別の言葉でいえば“全方位戦略”である。