MCU、フェーズ5は中心人物がいない異常事態に 『デッドプール3』が重要な役割を担う?
物語と俳優の関係性
光岡:昔に比べてこまめにニュースは追えていませんが、『アベンジャーズ:ザ・カーン・ダイナスティ(原題)』の監督が降板し、脚本家が変わった件も含めて、MCUは今すごくプランを変えているのではないでしょうか。もともと変えていくスタジオではありましたけどね。 杉山:変えましたよね。 光岡:今回ヴィラン(カーン)をどうするかという話も、もう詰めていると思います。 杉山:僕は、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』について、トビー・マグワイアとアンドリュー・ガーフィールドが出演してくれるってなったから、あの脚本になったと思っていて。MCUはそういうところもありますよね。 光岡:『デッドプール3』でも過去の『X-MEN』に出ていたキャストや、『エレクトラ』のジェニファー・ガーナー、『ブレイド』のウェズリー・スナイプスの出演の噂がありますもんね。しかしそれは、出てくれる人が出てくれるって言っているだけでのお祭りでしかない。要するに、マルチバースというストーリーありきというより、そういうさまざまな事情に動かされていて、その全てが上手くぴたりと収まればいいけど、ここのところぐちゃぐちゃになっちゃったなとか、急に変えたなって観客からは見えちゃう時もある。そうじゃなければいいなと思います。 杉山:俳優でいうと、個人的に『マーベルズ』公開時にブリー・ラーソンにアンチがいるのかなと感じました。 光岡:いますね。『ブラックパンサー』の時にも「『ブラックパンサー』が気に入らないから、レビュースコア荒らそうぜ」みたいなことがネットで起きていて、そのあと映画レビューのシステムが変わって公開前のレビュー投稿ができなくなったはずです。しかし当時は、公開前に悪口をたくさん書き込んで1点のスコアをつけまくる動きがありました。『ブラックパンサー』の全米公開日にレビューサイトを見ていると、どんどん映画を実際に観た人のレビューに入れ替わって、何時間かしたらスコア平均が4.8になっていた。その入れ替わりに目を奪われて、徹夜して朝まで様子を見ていました(笑)。しかし『キャプテン・マーベル』でも全く同じことが起きてしまって、それはもっと酷かったんです。「女性ヒーローだからって悪いほうに特別視されている」という趣旨のラーソンの発言を嫌ったアンチが悪いレビューをつけていました。もちろん、公開されるとまた全部オセロみたいに変わったのですが、『ブラックパンサー』の時の2倍くらい酷かったです。やはり「女性ヒーローだから特別視しないでほしい」とか「女性ヒーローだから応援してほしい」とか、もう何を言っても一部の人にはとにかくダメで。要するに、極端に言えば女性ヒーローが目立つこと自体に腹が立つわけですから。 杉山:それも酷い話ですよね。僕はブリー・ラーソンのキャプテン・マーベル、すごくカッコよくて好きで、ホットトイズを即買いしましたから。 光岡:一部の人がネットで目立つだけで、そういう声はすごく見えやすいんです。キャプテン・マーベルって笑わないし、愛想がないキャラクターなんですよ。セクシーなわけでもない。女性ヒロインはセクシーか愛嬌がないといけない、という先入観があるから「別にそうじゃなくてもいいじゃん」という映画のスタンスが(一部のファンは)気に入らなかったんですよね。でも、MCUファンはキャプテン・マーベルのことを普通に好きじゃないですか。 杉山:そうですよね。ブリー・ラーソンのバッシングはひどいものがありました。 光岡:それでも「辞めるつもりはない」とどこかで発言しているのを『マーベルズ』公開後に見たので、ちょっと嬉しかったです。 杉山:『マーベルズ』も楽しい映画ではありましたけどね。 光岡:やはりあの3人は良いですよね。マーベルは本当にキャスティングが常に的確だと感じました。 杉山:敵のダー・ベンも良かったけど、ヴィランがやっていることがちょっとよくわからない時は盛り上がりがないですよね。 光岡:そうですね。結局、宇宙とかスーパーパワーとか全て観客に関係のないことじゃないですか。それをどう関係あることだと思わせるのかがアメコミ映画の肝だと思っていて、MCUは最初それをうまくやったからすごい成功を収めたわけです。しかし、ここのところ観客とのコネクトがうまくいっていない。それはやはり、設定を説明するのにいっぱいいっぱいになっているからだと思います。 杉山:確かにそれはそうですね。『シャン・チー/テン・リングスの伝説』も設定を説明するのが結構大変そうでした。 光岡:そうなんです。しかし、物語のキーになっているのは「親子の絆」だから感情移入ができるし、中国の古典とかみんなに馴染みのある設定も取り込まれていたからすごく良かった。ただ、今回の『マーベルズ』は残念なことにどこをフックにして感情移入していけばいいのかわかりませんでした。まあ、猫がかわいいっていうのはあるけど。 杉山:杉山:確かに。ちなみに僕が一番感情移入できたのはカマラのお母さんでした。そういう意味でもカマラ・ファミリーの話でしたね。 光岡:『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』にあった、心が掴まれる瞬間がもう少しあってもよかったかな。。それは『ミズ・マーベル』でやったから、もういいだろうって思ったのかもしれないけど。 杉山:ああ、確かにそれはそうかもしれない。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』は泣くくらいエモーショナルでしたからね。 光岡:やはり、ああいうふうに作らないとダメなのかなって少し思いました。あれも難しいですけどね。お涙頂戴みたいになっても良くないし。 杉山:しかし、その辺はジェームズ・ガンの上手いところですよね。 光岡:ファンタジーと監督の私的な思いなどが、うまく設定と絡むことができないとやはり難しいかなって。フォックスの『X-MEN』シリーズは本当に、そこはよくできていたと思います。