高知龍馬空港、新ターミナルビル整備の予算が倍に 一体なぜ
高知県が進める高知龍馬空港(同県南国市)の新ターミナルビル整備の費用が、当初計画から約1年で倍近くに増える見通しになった。県議会で説明され、いったん議決された予算が、なぜ急激に大幅に増えるのか――。 高知龍馬空港は1960年に開港。2024年11月現在、国内大手と格安航空会社の計4社が羽田、成田、伊丹、福岡、小牧、中部路線を1日計44便運航している。国際便は23年からタイガーエア台湾が台湾・桃園国際空港とのチャーター便を週4便、定期運航している。23年度の空港利用者は159万人、うち国際チャーター便利用者は3万人を占める。 19年3月に県がまとめた「高知龍馬空港・航空ネットワーク成長戦略」では、21年度の目標利用者を180万人以上と設定。世界的な日本観光ブームを受け、いかに高知に訪日外国人を呼び込むかが大きな課題とされた。 官民の空港関係者と県、関係自治体などで構成する成長戦略検討会議は20年1月、14~18年度の5年間で計59便だった国際チャーター便の受け入れを年間100便に増やし、定期便につなげるためには、空港の受け入れ体制を強化することが必要だとして、国際線専用の新ターミナルを段階的に整備する計画案(整備費40・6億円)の検討を決めた。 しかし、検討は新型コロナウイルス禍で訪日客が途絶えたことでストップ。コロナ禍からの回復傾向が見え始めた22年12月に検討会議を再開し、21年度に71万人までに落ち込んだ利用者を25年度に180万人まで増やす目標が改めて提案され、新ターミナル整備の再検討が始まった。 再検討では、供用開始を大阪・関西万博開催期間(25年4~10月)に間に合わせることや費用の削減などを考慮し、従来計画案を変更。既存のターミナルビルの一部改修を含む、国内線と国際線が共用する新ターミナルの整備案を23年10月にまとめた。この案では費用は19億4800万円に抑えられ、供用開始時期は25年10月とされた。大阪・関西万博の最終盤にぎりぎり間に合うスケジュールだ。 県はこの案を最終案とし、23年12月補正予算に地質調査委託料990万円と、債務負担行為として設計委託料1億4415万円を盛り込み県議会で議決された。ようやく念願の新ターミナル整備が動き始めるかに見えた。 ところが24年2月に基本設計を始める前後から、県のヒアリングに対し、出入国機関や航空会社関係者から整備案の変更を求める声が上がってきたという。浜田省司知事は24年6月議会で、「出入国手続きのスペース拡充や検査機器の大型化に対応するためのスペースの追加、保安上の利用者の動線見直しに伴うレイアウト変更、要人対応のための動線新設などの意見を多数いただいた」と説明し、計画変更を示唆。24年9月に開催された検討会議で、指摘に対応する変更案が示された。 変更案では、整備面積が4001平方メートル(前回計画比約19%増)に拡大し、整備費用は17億600万円多い36億5400万円(同88%増)に増えた。増加額の内訳は、面積増3億5100万円▽資材・労務費の高騰6億1800万円▽耐震性強化4億500万円▽消費税の追加3億3200万円。完成時期は26年度中に後ずれし、「大阪・関西万博に間に合わせる」という旗を降ろすことになった。 短期間での計画変更について、県航空戦略室は「23年にまとめた整備案は、コロナ禍からの回復途上で検討したため、海外需要が一気に消失するリスクを考慮して、できるだけコンパクトな整備を方針とした。だが、その後の急激な需要回復により他の空港での海外便急増などを見て、本格的な整備をすべきだと考えた」と説明する。浜田知事も24年9月議会で、「新ターミナルビルは将来数十年にわたって本県のインバウンド観光の要となるもの」と説明し、方針変更に理解を求めた。 ただし、整備費用増額の内訳に「消費税の追加」が上がっていることに対しては批判の声がある。県は変更前の計画の事業費を消費税抜きで計算しており、今回の見直しに際して全事業費の消費税分を追加した。県航空対策室は「県と事業者の打ち合わせで、事業者は『工事費と消費税は別』という認識だったが、県は『工事費に当然消費税も含まれている』と思い込んでいた」と釈明する。初歩的なミスは計画全体への信頼性に関わるため、浜田知事も24年9月の定例記者会見で「(消費税抜きの事業費は)財政負担の規模を示すという意味では、数字として失格だ。厳しく重く受け止めないといけない」と反省の弁を述べた。 今後、25年度予算で変更された計画を基とした案が提出される見通しだ。地方にとっては、大都市や海外とつながる空港という「玄関」のあり方は、観光、産業のみならず、そこに暮らす人々に大きな影響をもたらす。限られた予算を空港整備に投じるには、これまで以上に透明な議論と精緻な裏付けが必要になる。【小林理】