映画好きなら見逃せない! 今見てほしいこの3本!! ―男の胸を 騒がせる 女たち
映画には男たちの胸を騒がせる、魅力的な女性が登場する。「男はつらいよ」シリーズで97年の特別篇を含め、計6回寅さんのマドンナになったのが、浅丘ルリ子演じるリリーだ。初登場した「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」(73)では北海道の網走で寅さんと初対面。テキヤの寅さんと、バーやキャバレーで歌う売れない歌手のリリーは、自分たちのように全国を渡り歩く〝根無し草〞の生活は、あぶくのように儚いものだと共感しあう。作品では同じ境遇だからこそ分かり合える二人に、やがて恋が芽生えていく。シリーズのマドンナにはいろんなタイプがいるが、ひとつの場所に定住できない寅さんの〝漂泊者〞としての心情を最も理解しているのがリリーなのだ。独り身の淋しさと、旅をさすらう自由人の気安さがわかるからこそ、二人は相思相愛でありながら出会いと別れを繰り返す。他にも「男はつらいよ 寅次郎相合い傘」(75)、「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花」(80)と、寅さんの〝心のパートナー〞であるリリーが出てくる作品は、名シーン、名セリフが満載された傑作だ。
東直己のハードボイルド小説『ススキノ探偵』シリーズを映画化した「探偵はBARにいる」シリーズ3部作には、主人公を惑わすヒロインが現れる。札幌市の歓楽街ススキノを舞台に、大泉洋演じる探偵と松田龍平扮する助手兼運転手の高田が活躍するこのシリーズ。第1作では謎の女性から、2年前に起きた放火殺人事件とその後発生した実業家に対する暴行殺人事件に絡んだ調査を依頼された探偵が、危険に巻き込まれていく。探偵が謎の女性と殺された実業家の元妻が同一人物ではないかと疑ったことで事態が動いていくが、そのミステリアスなヒロインに扮したのが小雪。どこか危険な匂いを感じながら探偵が惹かれていく女性を、魅力的に演じた。第2作では尾野真千子が、第3作では北川景子が探偵を危険に誘うヒロイン役で登場する。
女性の視点から極道の世界を描き、大ヒットした「極道の妻たち」シリーズ。第1作に主演した岩下志麻が、その気風のいい啖呵と男たち顔負けの迫力でシリーズの〝顔〞になっていったが、忘れてはならないのがシリーズ9作品に助演したかたせ梨乃。やくざの情婦や元妻に扮して、時には岩下を助け、時には対立してドラマを盛り上げた。異色なのが、彼女が娘を育てるシングルマザーを演じた「極道の妻たちⅡ」(87)。ここでは復縁を迫る村上弘明演じる元やくざの恋人・木本からの求愛と、堅気の生活を送ることの間で苦悩する女性・麻美を好演。彼女が持つ芯の強さが、ひとりのやくざの人生を変えていく様が描かれる。この演技でかたせ梨乃は日本アカデミー賞最優秀助演女優賞にも輝いた。またこのシリーズには、意外な女優も出演している。「極道の妻たち 最後の戦い」(90)には、かたせ扮する元極妻の妹役で石田ゆり子が登場。やくざ映画のイメージが薄い彼女のような女優が顔を出すのも、女性映画の一面を持つ〝極妻〞ならではの魅力だ。ここでは哀川翔扮するやくざ者に優しくされる役だが、極道の世界に染まらない清らかさが印象的な、堅気の女性を初々しく演じている。 文=金澤誠 制作=キネマ旬報社 (「キネマ旬報」2024年1月号より転載)