上白石萌歌「泳いでいるときが“無”になれる」『リア王』で3年ぶりの舞台に挑む
“無”になるための必要な時間
――次から次へといろんなジャンルの作品と向き合っている彼女だが、“演じる”ことが、素の上白石萌歌にどんな影響を与えているのだろう。 上白石: 10代の頃からお芝居を始めましたが、ちょうど自分の人格が形成される時期でもあるので、演じる役と一緒に自分を作ってきたと思っています。演じる役に自分にはない要素を感じたとき、演じることでその人の持つ要素を少しもらった気にもなります。 とは言っても、私はお芝居には自分の中にあるものしか捻出できないと思っていますので、なるべく自分自身も多面的でいたいですし、真っさらな白でもあることで私を通していろんな役を見ていただきたいです。ですから、役とは一緒に目の前に広がる情景を見て、人格をともに作っていくパートナーのような感じがあります。 ――その時々に演じていた役とともに歩んで来た彼女の人生に、空っぽになる時間はあるのだろうか? 上白石: 最近、気がついたんですが、泳いでいるときが“無”になれて、いいなと思いました。以前、水泳選手の役を演っていた時期が合ったんですが、最近、水泳を再開しました。海も好きですし、湖も好き。泳いでいるときが一番自分らしいというか、何にも考えないフラットな状態でいられます。 泳ぎながら台詞の確認をすることもできるんです。多分、すごく水が好きなんですね。今日も、水泳をしに行こうと思っています(笑)。体を動かせることもできるので、私にとって必要な余白なんです。 ――多忙な日々でも、水泳のための時間を捻出しているようだが、彼女にとって本を読む時間もまた欠かせない時間だ。 上白石: 最近は短歌にすごくハマっていて、歌集をひたすら買うようにしています。短歌って、自分が今まで体験してきたものや見てきたものも映し出されているだけでなく、すごく制約のある中で壮大な情景を描いているので、想像力が鍛えられると思いました。 特に現代短歌というジャンルに注目していて、歌人の伊藤紺さんの短歌が大好きなんです。たった一句であっても、文庫本の1ページくらいの情景が詰まっていて、文字数に差があるのに想像が膨らむように感じるのがすごいですね。 最新刊の『気がする朝』はもちろん、伊藤さんの歌集はすべて持っています。“ペットボトル”という言葉が出てくるようなとても身近な日常を切り取ったものが多いので、特にハマっています。 私自身も小学生の頃に俳句のコンクールに応募したことはありますが、短歌はハードルが高いと思っています。でもいつか詠んでみたいですね。 シェイクスピアや短歌について語るその表情からは、言葉が描く世界を大切にしていることが伝わってくる。そんな上白石萌音が創り上げるコーディリアの登場が待ち遠しい。 上白石萌歌(KAMISHIRAISHI MOKA) 2000年生まれ。鹿児島県出身。2011年、第7回「東宝シンデレラ」オーディショングランプリを受賞。12歳でドラマ『分身』(12/WOWOW)にて俳優デビューミュージカル『赤毛のアン』(16)では最年少で主人公を演じた。映画『羊と鋼の森』(18/東宝)で第42回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。主な出演作にドラマ『義母と娘のブルース』(18/TBS)、『教場Ⅱ』(21/フジテレビ)、『警視庁アウトサイダー』(23/テレビ朝日)、『ペンディングトレイン-8時23分、明日 君と』(23/TBS)、『パリピ孔明』(23/フジテレビ)、など。adieu名義で歌手活動も行う STYLED BY AMI MICHIHATA, HAIR & MAKEUP BY TOMOMI SHIBUSAWA