『SHOGUN 将軍』鞠子役抜擢のアンナ・サワイ、ハリウッド女優へと羽ばたいたその道のり
◆日本人女性の“奥行き”ある描き方に共感
最新作『SHOGUN 将軍』でアンナが演じるキャラクターは、“謀反(むほん)者の娘”という宿命を背負ったキリシタンで、漂流者として捕えられた按針(コズモ・ジャービス)の通訳に抜擢された謎めく女性。以前、島田陽子さんが演じ、一躍国際派女優として注目を集めた大役だ。当初、その人物像を理解していなかったアンナは、鞠子役をあまり掘り下げずにオーディションを受け、一度は落選の憂き目を見ている。ところが数週間後、「ディレクターと密に話し合いをした上で、もう一度演じてほしい」という連絡を受けて、アンナは再びトライすることになる。 「鞠子を掘り下げると、キリシタンの心と侍の心を持ち併せたとても繊細な女性であることがわかったんです。たくさんの傷を抱えながら自身の務めを見つけ出していくところは大いに共感しました。監督やプロデューサー、脚本家の方々との話し合いのなかで、鞠子への理解を深めてからは、私にとってとてもリアリティーのあるキャラクターになったと思います」と当時を振り返る。 さらに、「これまでさまざまな海外のプロジェクトに参加してきたなかで、日本人女性の描き方に対して疑問を持つことが多々ありましたが、この作品は原作を忠実に描きたいということで、鞠子に色濃いストーリーをきっと与えてくださるに違いないと確信しました。従順でセクシー、ハードアクションも厭わない、というアジア系女優の偏ったニーズを払拭し、語らずとも鞠子の葛藤が滲み出るように心を込めて演じたい…これは私にとって大きなチャレンジになりました」と力を込める。現マネージャーと二人三脚でハリウッド女優への道を切り拓いてきたアンナにとって、本作は大きなターニングポイントとなる。
◆レジェンド・真田広之は“学び”の宝庫
本作の主役とプロデューサーを務める真田は、アメリカを拠点に活躍する日本人俳優の第一人者。同じく世界を視野に入れて活動するアンナにとって、今回、彼の体験やメンタリティーを学ぶ絶好のチャンスだった。「プロデューサーとしてのヒロさん(現場で真田は親しみを込めてヒロ、またはヒロさんと呼ばれている)は、つねに優しくて情熱的なんですよね。ジョークを言って現場を和ませることも忘れないし、みんなの一番良いところを引き出そうと、ご自分の出番が終わっても、ずっとモニターを観ながら一人一人にアドバイスされている。レジェンドなのにとても人柄が柔らかなんです」と称賛の言葉を惜しまない。 アクションの練習にも顔を出し、「自分のパート以上に私のパートを真剣に考えてくださる」という真田を、アンナは彼が演じる虎永の人柄になぞらえる。「温かく柔らかいけれど、仕事に関しては妥協しない。答えが見つかるまでとことん指導してくれる。そんな1本筋の通ったところは、虎永様を彷彿させるんですよね。私が長刀(なぎなた)を振り回すシーンも、自らやって見せてくださったんですが、女性しか持たない武器なのにあっという間に習得されて、膝を付けたままで戦う姿が完璧なんです。ただ、命がかかった場面では脚を広げたスタンスで戦った方がリアルだからと柔軟性を持たせてくれるところもあって、指導者としても素晴らしいとしか言いようがありません」と目を輝かせる。 俳優としても、「私が語る資格などないレベル。決して大仰(おうぎょう)な演技ではなく、内面から滲み出てくるような重みと言いますか…特に虎永の衣装を着ているときはものすごいオーラを感じます」とこちらも大絶賛。「私の場合、『アジア人をもっと起用しよう』という機運のなかでキャリアをスタートさせたので、役を掴むことに昔ほど苦労はしていないと思いますが、ヒロさんの場合は、役がない、セリフがない、発言権もないなど、不遇の時代を耐えながら、一つ一つキャリアを積み重ね、現在の地位を獲得されたパイオニア。つまり、海外進出を目指す私たちのレールを敷いてくれた方なんですよね。その苦しみを背負ってのし上がってきたからこそ滲み出る迫力は、決して真似できるものではありません」。唯一無二の存在に、アンナも言葉では言い尽くせないほどの“学び”があったようだ。 これまでは、「絶対にこの役をやってみたい!」というスタンスではなく、どちらかと言えばマネージャー主導でオーディションを受け、運命的な出会いに一喜一憂してきたというアンナ。そんな彼女が、『SHOGUN 将軍』という作品で日本人としての“誇り”を初めて体感し、「ヒロさんのように全身全霊を作品に捧げる情熱的なプロデューサーやショーランナーとまた一緒に仕事がしたい」という“欲”が生まれてきたという。まずは新境地に挑んだ戸田鞠子役、アンナが心血を注いだヒロインをこの目に焼き付けようではないか。(取材・文:坂田正樹 写真:高野広美) 『SHOGUN 将軍』は2月27日からディズニープラスの「スター」にて独占配信開始(初回は2話配信、その後毎週1話ずつ配信。最終話は4月23日)。