【破綻の構図】テックコーポレーションと不自然な割引手形
債権額と売上高の不整合
「テックコーポレーションの製品は売れなかった」と振り返る債権者がいる一方、テック社と代理店契約を締結後、過去最高の売上高を更新した企業もある。 「破産申立書」の債権者の上位には、テック社の販売代理店が並ぶ。大口債権者のうち、4月5日現在、約10社が破たんしている。また、債権者名簿に掲載されていない1社も民事再生法の適用を申請している。TSRは債権者や取引先の動向を探っているが、連絡を取りにくい先が複数ある。 テック社に連鎖して破たんした企業の税務申告書には、テック社への支払手形として約2億5,000万円、売掛金として約1億5,000万円が計上されている。これだけから判断すると、売りと買い双方の取引があったことになる。この金額はテック社以外への支払手形や売掛金と比べ、群を抜いて高額だ。 大口債権者の売上高と債権額を比較すると、目を引く点が生じる。年商(売上高)約14億円に対して、テック社への債権額が約10億円などだ。取引実態はどうなっていたのだろうか。 テック社との取引を途中で停止し、難を逃れた先もある。担当者は「商流の異常さを感じた」と語る。一方、テック社に焦付が生じた企業の代表はTSRの取材に対し、「当初は販売の裏付があった取引だったが、次第に曖昧になっていった」とコメントした。 さらに取材を進めると、テック社と取引を重ねた複数の企業が取引スキームを証言した。 証言を総合すると、以下のようになる。 1.テック社が「注文が入った」と取引先へFAXなどで連絡する 2.取引先はFAXなどで明示された注文金額から5%程度を差し引いた金額を記載してテック社へ注文書を送る 3.テック社への仕入代金は、テック社の要請に応じて手形を振り出す 4.テック社は割り引いて現金化する 5.テック社は取引先から受け取った手形期日の5日前に、手形の額面金額に5%程度を上乗せした額を取引先へ振り込む 与信業界に長く在籍する人物は、このスキームを「テック社が手形貸付で資金調達しているようにみえる」と評する。 テック社の関係先はTSRの取材に対し、「融通手形はない」との態度を貫いている。だが、ある債権者は、「途中から5%をもらえる投資感覚で手形を振り出していた」と証言する。別の債権者は、「手数料がもらえる取引で、融通手形と言われたら否定できない」と後悔を滲ませる。さらに別の債権者は、「(自振手形の期日が長期サイトのため)入金になるまでの期間が長く、手形残が膨らんでしまった」と無念がった。 読み解きが難しいように感じられた、テック社の破産申立書の「一方、取引会社は、債務者の金融機関において割引手形を取引会社が決済されることも予想されることから、取引会社の債務者に対する割引手形の決済金額(割引額に5%の利益を加えた額)を買掛金に含めることを予定して、買掛金に含めて算定している」の理解を助ける証言だ。 テック社の破産申立書に添付されている買掛金一覧にも目を引く場所がある。一覧番号1~24までは買掛金額の大小と関係なく債権者名が並んでいる。また100万円未満が多い。ところが番号25以降は、約10億円から降順で債権者名が並ぶ。上位はすでに破たんした企業が目立つ。 破産申立書は、さらに以下の記載もある(要約)。 2022年9月、取引先が3億1,500万円の資金ショートを起こし、不良債権の発生で資金繰りが悪化した。2024年3月5日には取引先が振り出した手形約3,000万円が不渡りとなったが、買戻せずに一部の金融機関との取引が難しくなった。 こうして資金繰りに行き詰まり、3月6日の取締役会で破産申請を決議した。 テック社が事業を停止した翌日、テック社に、慌てた様子で債権者が訪問した。話を聞くと、「(テック社の)社長に電話して自社振出の手形返却を求めたが、すでに廻したと言われ、返却を断られた」と天を仰いだ。 与信担当者の関心は、テック社の取引先へすでに向けられている。全体像の解明と、こうした不信への早期の対応が必要だ。 破産管財人に取材を申し込んだが、「債権者集会まで個別の質問に答えることはできない」とコメントした。 (東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2024年4月8日号掲載「破綻の構図」を再編集)