ロシア帝国崩壊後のウクライナを描く『白衛軍』@新国立劇場
現在も戦火の続くウクライナを舞台に帝政ロシアの崩壊後、ロシア帝国の士官だった者たちの戦いを描く『白衛軍』が、新国立劇場で12月に幕を開ける。 原作者は20世紀ロシアを代表するウクライナ出身の作家、ミハイル・ブルガーコフ。彼の代表作である『白衛軍』は1924年、小説として初めて発表され、1926年に作家自身が戯曲『トゥルビン家の日々』としてモスクワ芸術座で上演。「第二の『かもめ』」と評され成功を収めた。 しかし、その後は健康問題やソ連体制下で作品の多くが発禁処分となるなど、過酷な生涯を送り、48歳という若さで命を落としている。 白衛軍は、ブルガーコフ自身も軍医として従軍したという実在した軍事組織だ。ロシア帝国崩壊後、主に旧ロシア帝国軍人たちで構成され、ウクライナにおいてはキーウでのソヴィエト政権樹立を目指す赤軍(ボリシェヴィキ)に抗う存在だった。彼らが対立するのは赤軍だけではない。ウクライナ人民共和国を名乗り、社会主義的な側面を持つペトリューラ軍とも三つ巴の戦いになる。 こうした時代背景を元に物語は進んでいく。白衛軍のトゥルビン家に集まる将校たちは、時に歌い、酒を酌み交わし、日常を送ろうとする。しかし、白衛軍が支持するゲトマン政権が後ろ盾としていたドイツが第一次世界大戦に負け、トゥルビン家の人々も歴史の大きなうねりにのみ込まれていく。 演出家の上村聡史は「体制への鋭い批評性が持ち味のブルガーコフですが、本作は文筆活動初期の作品ということもあり、祖国の風景や思考を懸命に守ろうとした軍人たちとその家族の姿が瑞々しく描かれます」とコメントを寄せている。 キャストには、村井良大、前田亜季、上山竜治をはじめとする総勢19名の実力派俳優たちが顔を揃え、激動の時代を生きた家族のドラマを描いていく。 この時代の混乱は、今、ウクライナで起きている事ともつながっている。政治的な対立と、自分の生きる場所を守りたい人々の心情は時代を超えて変わらない。ソ連時代、様々な作品が発禁処分となる中でこの作品が生き延び、私たちの前で演じられることには大きな意味があるだろう。