懐かしい? QBBの〝型抜きチーズ〟 「給食で出た!」 30年以上たっても類似商品が出ない理由
実は技術が必要
黒田さんによると、学校給食用の出荷がメインではあるものの、近年はネット通販やスーパーなどで一般の人が購入する機会も増えているとのこと。 「親御さんが『懐かしい』『子どもが楽しみながら食べてくれる』と買っていかれることが多いようです。最近は普通のスーパーでも『型抜きチーズを小売りさせてもらえないか』というお話をいただくこともあり、ありがたい限りです」と話します。 型抜きチーズのデザインは全部で10種類。団子鼻が特徴的な0系新幹線など、時代を感じさせるものもあります。 子どもが喜ぶデザインに成型したチーズ。類似品が登場してもおかしくなさそうですが、そうならないのはなぜでしょうか。 プロセスチーズは原料となる複数のチーズを混ぜ合わせて溶かし、固めて作ります。 型抜きチーズの場合は、溶かしたチーズを型に充填してから固めることで、動物や乗り物などの形にしています。 「簡単そうに思うかもしれませんが、粘度の高いチーズを型に充填するのには技術が要るんです」 型抜きチーズのデザインを決める過程で、型を作る段階まで進んだものの、形が複雑すぎて充填がうまくいかないなどの理由で製品化できず「お蔵入り」になってしまったデザインもあるそうです。 「手間がかかりノウハウも必要な一方で、普通のチーズと比べて利益が大きいというわけでもありませんから、そもそも参入しようという会社自体が少ないのかもしれません」
型抜きチーズ誕生に込められた思い
味や栄養価は同社が作る普通のプロセスチーズと変わらないという型抜きチーズ。 なぜ形を変える手間をかけようと思ったのでしょうか。 「『チーズで子どもたちの会話のきっかけを作れれば』という狙いがあったようです。大人の視点だけで作ると、どうしても味や栄養価など実用一辺倒になってしまう。見た目の要素を加えて、子どもたちを楽しませられないかという発想だったようです」と黒田さんは語ります。 確かに、SNS上でも「友達と好きな形のチーズを交換していた」といった投稿が見受けられます。 「型抜きチーズに限らず、商品開発の際には、子どもたちに食べてもらうことを強く意識してきた歴史的な背景があります」 同社の前身となる平和油脂工業が創業したのは戦後間もない1948年。食糧不足が続くなか、「子どもたちに少しでもカロリーがある食べ物を」と、当初はマーガリンなどを中心に製造・販売していたそうです。 その後、1958年にはソーセージ型に成型したスティックチーズを発売。 「まだチーズが高級品だった時代、家庭でも手軽にチーズを食べてもらえるようにというコンセプトでした」 刃物を使って切り分けたりする必要がなく、子どもでも自分の手で包装を開けて食べられることもポイントでした。 現在まで続く子どもたちにも配慮した商品作りですが、あるジレンマも。 「家庭でも学校でも、最終的に商品を選ぶのは大人ですから、なかなかアピールが難しいんです」 SNSで型抜きチーズがたびたび話題に上ることについて黒田さんは「『懐かしい』と言ってもらえるのは、それだけうちの商品が楽しい思い出と結びついているからなのかなと。もしそうであれば、こんなにうれしいことはありません」