日米合作『RENT』のプリンシパル・キャストにインタビュー! Vol. 3 ミミ役を演じるチャベリー・ポンセ
ミミ役のチャベリー・ポンセは、かわいらしい声を聞いているだけでミミを演じている姿が浮かぶよう。そして、インタビュー中に感極まってしまう感受性の持ち主。
――日本は初めてだそうですね。 とっても楽しいわ! 人々の気質がすばらしくて。親切で、互いに敬意を払う姿勢が美しいと思うの。 ――今回の出演の経緯は? ブロードウェイの『RENT』に出演経験のあるアンディ・セニョールJr.(2017年日本版のリステージも担当)が昨年『RENT』の上演を手がけて、その舞台に私はミミ役で出演していて。それで、今回演出を担当しているトレイ(・エレット)とアンディは共演経験があって、ミミ役で誰かいい人はいないかと問い合わせてきたトレイに、アンディが私を推薦したというわけ。『RENT』もミミも大好きだから「YES」と即答したわ(笑)。ミミにすごく親近感を覚えているから、演じるチャンスがあれば絶対に逃さない。その上、日本に長期滞在してショーができるなんて! 最高にクールよ。 ――『RENT』との出会いは? 最初に出会ったのは15歳のとき。その瞬間から、ミミというキャラクターに魅せられたの。まだ若かったけれども、自分はミミを演じるために生まれてきたと思った。 ――声を聞いているだけで、ミミを演じる姿が観たい、と思いました。 うれしいわ! 私も早くみんなに観てほしい。それに私、『RENT』の作詞・作曲・脚本を手がけたジョナサン・ラーソンも大好きなのね。『RENT』はたくさんのスピリチュアルなエネルギーがこめられている作品だと思う。なぜなら、実際の話に基づいて作られているから。そして、多くの人々に悲劇をもたらしたAIDSのエピデミックを扱っていることから、今となっては歴史的な作品となっている。あの時代に起きたことを私たちは決して忘れてはいけないと思うの。ジョナサンは、『RENT』を作るにあたって、実在する人々の名前や、人々が実際にサポート・グループの会合で発した言葉を用いた。出演するにあたって、そうしたことすべてに対して最大の敬意を払わなくてはならないと感じているわ。 ――『RENT』に出会う前からミュージカル・ファンだったんですか。 もともと音楽は大好きだったの。父がギターを弾いていたこともあって、ロックが大好きで。ミュージカルの学校ではなく演技の学校に行って、演技専攻で卒業したばかりなんだけれども、『RENT』出演をきっかけにミュージカルの世界に飛び込んだという感じ。自分はとてもラッキーだと思うわ。 ――『RENT』の何にそこまで引き付けられたのでしょうか。 作者が明確な目的をもって作り上げた作品、そして、作者がその成果を自分では見届けることなくこの世を去ってしまった作品に、なぜか心引き付けられてきたの。それって、本当に心の痛むことだと思う。私、両親がふたりともキューバからの移民なのね。ふたりの話を聞くと、いつでも心が締め付けられるようで……(と目に涙を浮かべて)。父はミュージシャンで、母はエンジニアだったけれども、ふたりとも夢をあきらめてアメリカに渡ってきた。そうするしかなかったからなんだけれども。 でも、母は「あなたの夢を生きてね」と小さなときから言ってくれて、父と共に最高のサポートをしてくれている。そういうことがあるから、作者がその人の夢をすべて詰め込んで作り上げて、でも、それが人々に与えるインパクトを見届けることなくこの世を去ってしまった作品に魅せられるんだと思うの。そういう作品に出会ったとき、私は、俳優としての自分の責務を果たさなければと、強い使命感を覚える。俳優として、作品、その物語を伝えるための入れ物になるの。 ――日本での仕事を楽しんでいますか。 ええ! (山本)耕史もクリスタル(ケイ)も大好き。日本チームのみんなも。日本の人って優しくて親切で、本当にプロフェッショナル。耕史は始終差し入れしてくれるんだけれども、誰がヴィーガンで誰がペスカタリアンとかすべて把握して対応してくれているの。 ――好きなシーンやナンバーは? 選べないわ! 難しすぎる。でも、「Seasons Of Love」は外せないわね。みんなの心を打つ曲だから。「Good Bye Love」は、聞くたび心が締め付けられるようで……。そして、ミミがロジャーとデュエットする「Another Day」も大好き! ――ミミにそこまで共感を覚えるのはなぜ? まず、ミミと私はラティーナ、ヒスパニック系という共通点があるから。複雑性を抱えたラティーナ、ヒスパニック系の女性キャラクターを舞台で観るのが好きなのね。それと、ジョナサンがミミについて書いた文章を読んだことがあるんだけれども、「ミミはただ愛されたかった」とあって。彼女は、自分がたった19歳で死ぬことを知っているけれども(と涙ぐんで)、命が終わる前に愛を必死に追い求めている。ミミの立場になって考えてみると、彼女と同じ行動をしただろうな……と思うのね。 それに、彼女の抱える混沌、ある種の無分別みたいなところも共感できるわ。ミミを演じているとき、ミミとしてステップを踏むとき、自分が解放されるのを感じるの。普段は、自分の内面をとりあえずはおいておいて、お行儀良くしなきゃなんて思っているわけだけど、ミミを演じるとき、そういった思いはすべて吹っ飛んで、自分の中にあるものをすべて解放できる。ミミは動物的なところがあるし、自分の欲望に忠実で、自分の声を上げること、セクシーであることを恐れない。私にもそんな部分があると思うし、ミミのようになれたらと思うときもあって。 自分の人生の時間が終わりかけていると感じ、永遠の命を意識したとき、人はただ生きるしかない、自分としての声を上げて生きるしかないと私は思うのね。ミミをすごく理解できていると思う。彼女のすべての選択がベストなものだったとは思わないけれども、なぜそうしたかは理解できる。ミミが本当に大好きなの。 ――日本の観客にあなたのミミを披露できますね。 興奮しているわ! みんなの心を揺さぶりたい。来日して、ちょっと観察していると、日本の人って服装にしてもおとなしいし、ちょっと保守的なのかなと感じたりしていて。だから、私のミミで心が爆発するような瞬間をお届けしたいわ。ちょっとばかりクレイジーでもいい! 好きな服を着る! みたいな感じで。だってそれが人間だと思うし。 ――日本で楽しみにしていることはありますか。 もちろんいろいろ調べてきたりもしたんだけれども、風の向くまま、自由に行動して何に出会えるか楽しみにしていて。私ってけっこうそういうところがあるの。どこに行くか決めないで散歩するときもあるし。だいたい、『RENT』のミミ役で日本に長期滞在できるっていうこと自体が人生の不思議だと思うし、運命に身を任せてという感じだわ。 ――あなたが感じるミュージカルの魅力とは? ミュージカルの舞台に立っていると、自分が普段より強い人間に感じられるの。そして、自分の共感力を高めてくれる仕事でもある。この仕事を通じて、人間の生活や存在や感情に興味を抱くことができるし、登場人物に共感できるということは、人間そのものに共感できるということ。それって美しいことだと思う。特に、アメリカでは。 アメリカだと、人は自分の人生に専念しがちで、他者に対して開かれていない人も多い。ときどき、みんな人間なんだっていう感覚が忘れられ過ぎているんじゃないかなって思うの。でも、俳優をやっていると、自分の人間性、自分の内にある愛とコネクトできている感覚を得られる。ときどき、台本の中のキャラクターに自分が注いでいる愛の量を考えると、びっくりするの。そして、これだけキャラクターに愛を注ぐことができるなら、自分はもっと実際の世界、人間にも愛を注ぐことができるはずだと思う。それってとても美しい愛の力よね。この仕事が大好きだわ。 取材・文=藤本真由(舞台評論家) <公演情報> 日米合作 ブロードウェイミュージカル『RENT』 脚本・作曲・作詞:ジョナサン・ラーソン 演出:トレイ・エレット 初演版演出:マイケル・グライフ 振付:ミリ・パーク 初演版振付:マーリス・ヤービィ 音楽監督:キャサリン・A・ウォーカー 出演:山本耕史、Alex Boniello、Crystal Kay、Chabely Ponce、Jordan Dobson、Leanne Antonio、 Aaron A. Harrington、Aaron James McKenzie ほか ※全編英語上演(日本語字幕あり) 【東京公演】 日程:2024年8月21日(水)~9月8日(日) 会場:東急シアターオーブ 【大阪公演】 日程:2024年9月11日(水)~9月15日(日) 会場:SkyシアターMBS