グランドスラムを制する「テニス王」を目指して―9歳の九州大会チャンピオン高木咲來さんと父勲さん〔前編〕
2023年7月に開催された「第50回九州ジュニアテニス選手権大会兼全日本ジュニアテニス選手権'23九州地域予選」の12歳以下部門で優勝した高木咲來(さくら)さん。現在9歳の小学3年生、いま注目のジュニアテニスプレーヤーだ。1歳になる前にラケットを手にし、4歳で初めての試合に出場。指導に当たる父の勲さんと共に、常に世界を意識してトレーニングを行なってきた。夢に向かって挑む高木さん親子の日常に迫った。
遊ぶことがトレーニングになっていた
佐賀県鳥栖市、JR新鳥栖駅から徒歩5分ほどの場所に、朝日山という標高132.9メートルの小高い山がある。一帯が公園として整備されており、山の中腹から山頂に向けて、通称「トレーニング階段」と呼ばれる290段の階段が伸びる。Jリーグ「サガン鳥栖」の選手たちがトレーニングに利用することでも知られ、急な上に段差も大きい。 朝の光の中、階段を勢いよく駆け上がって行く高木咲來さん。その傍らで父の勲さんがタイムを測る。階段を上りきるタイムの最高記録は2分。部活の練習でやって来る高校生たちも驚くスピードで、年々タイムを縮めている。スピード練習をすることもあれば、1時間走り上り下りを続けることもある。今では1時間に10往復できるようになったという。 咲來さんが2歳になる前に近くに引っ越して来て以来、毎日のようにここへ遊びに連れて来ていたという勲さん。 「山の斜面にある広大な芝広場を駆け回り、ドングリを拾ったり、散歩中の犬に話しかけたりしながら歩き、階段を上って頂上にある小さな公園に行くのが日課でした。今はきれいに整備されていますが、以前は斜面には草木や倒木があってジャングル状態。そんな場所をよじ登っていました。よく野山を駆け回る、と言いますが、まさに野山の中で遊んで育ちました」(勲さん) 思う存分遊ぶことで、自然と咲來さんの足腰は鍛えられていった。
“透明な集中度”で九州チャンピオンに
1歳になる少し前のこと、勲さんに連れられて高校総体のテニスの試合を見に行った後で、自宅へ戻ってから、自分で父のラケットを取り出してきた咲來さん。まだよちよち歩きの時から、勲さんの出すボールに向かって、ラケットを振っていたという。父と遊びながらテニスに親しみ、3歳の時に入ったテニスクラブでは、年上の子どもたちに混じって、誰よりも長くラリーを続けることができるようになっていた。めきめきと上達を続け、クラブでは思うような練習ができなくなり、それならばと勲さんは自分たちのチーム「Team S.C」を立ち上げた。 咲來さんは4歳で初めて試合に出場し、5年生を相手に準優勝。それでも夜眠る時に、決勝で負けたことが悔しくて布団の中で大泣きした。初めて試合に出て、そこで負けたことで意識が変わったと勲さんは言う。小学校入学前の6歳の時に、佐賀県で行われた大会の12歳以下部門に出場。小学6年生と対戦し、優勝する。 今年2023年7月には、九州テニス協会主催「第50回九州ジュニアテニス選手権大会兼全日本ジュニアテニス選手権'23九州地域予選」に初出場。試合前には音楽を聞いて集中力を高める。お気に入りはAdoの「私は最強」やYOASOBIの「群青」。目指している状態を“透明な集中度”と表現した。 「気合を入れすぎると力が入るし、気持ちをゆるめすぎても思いきりできない。その真ん中の“透明な集中度”で、力を入れずしっかりやる」(咲來さん)と試合に臨み、6-4 6-3というスコアで初優勝を遂げる。全国大会でも初戦に勝利。9歳での九州大会優勝、全国大会初戦突破という快挙だった。