自民・立民、国民民主など取り合いへ 経済政策に公約取り入れも
立民は「非自公」枠組み模索
一方、立民は公示前の98議席から躍進した。野田佳彦代表が「政権交代こそ最大の政治改革だ」との訴えを前面に掲げ、「政治とカネ」の問題を争点として政権批判票や、自民党支持層の一部と中道・保守層の取り込みを狙った戦略が功を奏した。野田氏は27日夜の記者会見で「与党の過半数割れが目標だったので、達成できたことは大きな成果だ」と強調した。 議席を大きく伸ばして「1強他弱」状態を脱した立民は特別国会での首相指名選挙に向けて、ほかの野党との連携を目指す方針だ。政治改革推進では一致できても理念や外交・安全保障、エネルギーなどの主要政策に関する溝を埋めるのは容易ではない。 野田氏は28日、国民民主との政策協議について「特別国会前にはできないと思う。その後落ち着いた段階で丁寧にやっていきたい」と語った。過半数確保に向け、既に水面下では立民と国民民主の間だけではなく、自民と立民のベテラン議員などが接触を始めている。自公、立民それぞれの多数派工作が激化しそうだ。 また、政権交代や来夏の参院選に向けては立民と国民民主の再結集も大きな課題となる。立民幹部は「うちの党も国民民主も大きく伸ばす中、強気になった国民民主との合流のハードルは上がった」と漏らす。両党の支援組織である連合は合流に向けた政策協議などを後押しする構えだが、先行きは不透明だ。 維新は大阪など関西圏で地力を発揮したものの、ほかの地域では振るわず公示前の43議席から減らして38議席にとどまった。国民民主は「年収の壁」問題への対応など「手取りを増やすための経済政策」が子育て世代や若年層などから支持を集め、公示前の7議席から4倍増となった。 共産党は比例を中心に8議席を得て、社民党は公示前の1議席を維持した。れいわ新選組は公示前の3議席から9議席へ増やした。参政党と政治団体「日本保守党」はともに3議席を獲得した。 ●経済政策に野党の政策取り入れも 石破首相にとっては険しい道のりが続く。早期解散で元々脆弱な政権基盤を固める思惑だったが、目標とする自公で過半数の維持が果たせず、「選挙の顔」としての期待は剥げ落ちた。非公認や小選挙区と比例代表の重複立候補を認められず、落選者が相次いだ旧安倍派や旧二階派の議員らから首相や党執行部の対応への批判が噴出している。28日には小泉進次郎選挙対策委員長が衆院選の敗北を受けて石破首相(自民党総裁)に辞表を提出したが、党内の動揺を早期に収束できるかは不透明だ。 政権の不安定化は今後の政治改革論議や経済政策に影響を及ぼす。政治改革を巡っては、野党各党は党から議員個人に渡す政策活動費の廃止や企業・団体献金の禁止など抜本的な内容を求めており、自民も踏み込んだ対応を検討する見通しだ。 経済政策では、政府・与党は物価高対策を含む経済対策の策定と裏付けとなる補正予算案の編成を急ぐ。与野党ともに衆院選の公約に教育無償化の拡充や物価高対策を掲げており、今後野党から協力を得る見返りとしてこうした政策の一部を取り入れる可能性がある。 公約で減税策や積極財政などを訴えた野党も多い。参院選を見据えて財政圧力が強まる公算も大きい。石破首相は「経済成長と財政健全化の両立を実現していく」としているが、財源問題を含む財政運営や、持続的な賃上げに向けた政策パッケージなど今後詰めるべき課題は山積している。 自民党の「政治とカネ」問題による敵失で躍進した立民。政権交代を実現するには野党連携で指導力を発揮するとともに、政策やチーム力など政権担当能力を示すことが必要となる。 久々の与野党伯仲は政治に緊張感をもたらし、政策を前に進める原動力となるのか。あるいは国政の停滞で混迷の時を迎えるのか。世界が注目する米国大統領選を前に、日本政治も重大な局面に入った。
安藤 毅