「バレなければ…」。現職警官による性犯罪はなぜ、止まらない。見え隠れする特権意識…前本部長の発言も批判を増幅した
鹿児島県警は現職警察官らの不祥事が相次ぎ、その後の対応も県民が納得できるものとは言えず、信頼を失った。野川明輝前本部長による隠蔽(いんぺい)疑惑まで浮上し、組織そのものに不信の目が向けられている。一連の不祥事は、メディア捜索の是非や公益通報の適否、公安委員会制度の課題などさまざまな論点も浮き彫りにした。(連載「検証・鹿児島県警第1部~欠けた県民感覚③」より) 【関連】鹿児島県警の「受け渋り」は昔から?…詐欺被害を訴えても、南署は取り合わず「個人間の貸し借りだ」
プラカードには怒りの文言が並んでいた。「県民は黙っていない」「真相を明らかに」-。10月上旬の県議会前。有志でつくる「鹿児島県警の性暴力軽視・隠ぺい体質を問う会」のメンバー約10人が「女性の被害があまりにも多い」と声を上げた。 この日の最終本会議は、県警不祥事を巡る調査特別委員会(百条委員会)設置の可否を決める予定になっていた。 会は、女性団体のメンバーや県議らが立ち上げた。発起人の一人、松永三重子さん(72)=鹿児島市=は「多くの女性が被害に遭い、加害者は警察官というあり得ない状況が続いている。議会には今できることをしてほしい」と話し、傍聴に向かった。 しかし議会は、自民や公明などの反対で百条委の設置を否決した。 ■ □ ■ 女子中学生へのみだらな行為、同僚女性宅に侵入、13歳未満の少女に強制性交、知人女性に不同意わいせつ、複数の女性を盗撮-。2020年以降、県警では性犯罪関連の逮捕者が後を絶たない。内部からも「尋常じゃない」との声が聞かれる。
9月下旬の県議会本会議では、議員から「警察官が持つ特権意識が安易に性犯罪を起こさせたのでは」との指摘があった。野川明輝前本部長は「警察はなぜか性犯罪が散見される」と答弁。「アウトとセーフの線引きを、自分の中で正当化するようなものは発生しやすい」とも述べた。 これに「県警トップの発言とは思えない」と批判の声が上がった。野川前本部長は後に「性犯罪一般ではなく、事案を個別に見れば、自己正当化する要素が見て取れる」との認識を表明。その上で「相手に同意があると勝手に思い込むなど、都合よく解釈している側面がある」とした。 ■ □ ■ 実際、逮捕された当事者はどうだったのか。心境の一端は裁判での供述でうかがえる。 知人にわいせつな行為をした元警部は「気持ちを抑えられなかった。警察官として23年間一生懸命やってきたという自負があったが、心が弱かった」。盗撮を繰り返した元巡査部長は「ばれなければ犯行は明らかにならないという考えだった」と述べている。
性犯罪に詳しい志學館大学の淵脇千寿保准教授(刑法)は「一般的に、職業の特殊性など社会的地位を利用する傾向がある」と話す。その上で「公権力を行使する警察官も十分に当てはまる」という。 また、一般的なイメージの性的満足とは異なり、「支配性や攻撃性の側面が強くみられる」と分析する。県警の一連の事案も同様で、「同僚や知人など、自身がより対象にしやすい被害者を選んでいることからも明らかだ」とみる。「強い権力を持つ人ほど、高潔で自制心が強くなければならない」と指摘した。
南日本新聞 | 鹿児島