『デフ・ヴォイス』草彅剛の向き合う芝居が生み出すリアリティ 『ブギウギ』との共通点も
草彅剛が主演を務めるNHKドラマ『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』前編が12月16日に放送された。 【写真】荒井尚人(草彅剛)に手話通訳士の専属契約を依頼した手塚瑠美(橋本愛) 本作は、丸山正樹による同名小説を原作としたヒューマンミステリー。主人公の荒井尚人(草彅剛)は、耳の聞こえない両親の間に生まれた耳の聞こえる子供「コーダ」(Children of Deaf Adults)で、手話通訳士となって「デフ・ヴォイス」=「ろう者の声」と向き合っていく。感動を誘うようなヒューマンドラマに終わらず、殺人事件をめぐるミステリーの要素が絡み合っていくのが本作の魅力の一つである。 コーダを描いたドラマとしては先に吉岡里帆と笑福亭鶴瓶が出演したNHKドラマ『しずかちゃんとパパ』がある。『デフ・ヴォイス』の画期的な試みとして、実際にドラマに登場するろう者や難聴者の20名近い役柄のほぼ全てを、実際にろう・難聴の俳優が演じたことだ。 本放送に先立ってオンエアされた事前番組『ハートネットTV』(NHK Eテレ)では、オーディションからクランクアップまでに密着しており、手話指導者とともに手の動き、スピード、間、目の動きなどの検討が重ねられていったという。 それが顕著に表れているのが、荒井が17年前に取り調べ通訳を担当した門奈哲郎(榎本トオル)に対して「能美和彦(森岡龍)の事件に関わっていますか?」と手話で尋ねるシーン。門奈は突っぱねるようにして「事件とは無関係です」と手話で返答し、一気に心を閉ざす。時間にして数秒の短いシーンではあるが、その高いレベルの演出が積み重ねられ、『デフ・ヴォイス』はリアリティを持ったドラマとして成り立っている。 そんなリアリティの詰まった現場の中で、手話通訳士を演じた草彅。撮影時期は、現在放送中のNHK連続テレビ小説『ブギウギ』とも重なっており、NHK大阪放送局に向かう新幹線で手話を覚えていたというエピソードはその多忙なスケジュールが垣間見える。 劇中で印象的なのは、荒井にかけられる「綺麗な手話」「優しい手話」「懐かしい手話」という概念だ。言葉に込められたニュアンスは手話の手つきや表情によって表現され、それが「綺麗」や「優しい」といった相手への印象に変換されていく。つまりは『ブギウギ』を例にした発声を使った芝居とは異なる芝居の仕方が求められることになる。いや、荒井は聴者でもあるので、両軸の芝居と言えるだろう。さらには、ろう者独自の言語感覚もある。日本語に合わせた手話が「我々には外国語も同然だよ」という荒井へのセリフは、ろう者と聴者の間にある壁、互いにある当たり前が当たり前ではないということを痛感させられる。 そんな難役と言える荒井を、草彅はエネルギッシュに演じている。身体的には決してエネルギッシュとは言い難いかもしれないが、相手と向き合い思いを伝えようとするエネルギー、分かり合おうとするエネルギーを草彅の芝居からは感じるのだ。それは、ろう者の俳優と実際に対峙しているからこそのリアリティ。『ブギウギ』にて演じている作曲家の羽鳥善一とは真逆と言える役柄であるが、ヒロイン・スズ子(趣里)の思いに寄り添い作曲するという部分では共通しているように思える。 前編「記憶の中の少女」に続き、12月23日には後編「もうひとつの家族」が放送となる。17年前、荒井が門奈の娘から告げられた「おじさんは私たちの味方? それとも敵? どっち?」の答え。そして、本作のもう一つのテーマ「家族」が描かれる。
渡辺彰浩