【池袋暴走事故5年】刑務所は「苦しい」と回答した飯塚幸三受刑者に松永拓也さんが思うこと 「彼の言葉を未来の糧に」
2019年4月19日に起きた池袋乗用車暴走事故で、松永拓也さん(37)は妻の真菜さん(当時31)と娘の莉子ちゃん(同3)を亡くした。事故から5年がたとうとする中、松永さんは昨年12月から運用が始まった「被害者等心情聴取・伝達制度」を使い、車を暴走させた飯塚幸三受刑者(92)に、事故の再発防止に向けた協力を呼びかけた。後日届いた飯塚受刑者からの回答に松永さんは何を思ったのか。現在の心境を聞いた。 【写真】「莉子ちゃんのお絵描き場」の今 * * * ――今年3月22日、松永さんは「被害者等心情聴取・伝達制度」を使い、飯塚受刑者への思いを口頭で刑務所職員に伝えました。今回、制度を利用した理由は何ですか? 僕の中の「真菜と莉子の命を無駄にしない」という決意は、事故から5日後くらいには固まっていて、再発防止に向けて飯塚氏とも同じ視点を持ちたいという願いは、ずっと昔からありました。 もちろん、今でも彼を許せない思いはあります。でも、後世の人に同じ思いをさせないという最終目標をかなえるためには、被害者、加害者という明確な立場の違いを乗り越える必要がある。そこに僕の個人的な感情は不要です。 人間は失敗する生き物なので、過失犯である飯塚氏に罪を償わせるだけでは、第2、第3の池袋暴走事故は必ず起きます。僕は、奪われた妻と娘の命、遺族になった自分の経験、加害者になった飯塚氏やそのご家族の苦しみ、すべてを無駄にしたくないし、それが僕自身や飯塚さんにとっても唯一の救いになるのではないかと思っています。
■免許返納を進めるためには ――松永さんは飯塚受刑者に、高齢ドライバー問題についての意見や経験を問う8つの質問を投げかけ、4月6日、本人からの回答を報告する書面が届きました。各質問に込めた意図をお聞かせ下さい。(以下、〈〉内は質問と回答の要約) 〈質問1:あなたはどうすればこの事故を起こさずに済みましたか。 回答:「運転しないことが大事です。」〉 〈質問2:高齢者として、どのような社会であれば事故を起こさずに済みましたか。 回答:「運転しないことです。」〉 〈質問3:病院までの無料又は500円程度の送迎サービスなどがあれば利用しましたか。 回答:「はい。」〉 まず、すべての質問は92歳という飯塚氏の年齢を踏まえ、できるだけYES/NOで端的に答えやすいよう配慮しました。 質問1~3は、免許返納をしやすい社会を目指すための質問です。自治体によっては、免許返納した高齢者に対して、身分証として使える「運転経歴証明書」を発行したり、シルバーカーの購入費用を補助したりしていますが、まだまだ地域差は大きいし、積極的に広報されているとは言いがたいのが現状です。 飯塚氏は裁判の中で、電車は使い勝手が悪いから車を運転していたと主張しました。あの時はムカッときましたけど、たしかに地下鉄は階段やエスカレーターが多いし、高齢者が利用するには大変な面もあります。免許返納を進めるには、車がなくても安心して生活できる社会になる必要がある。高齢者自身の決断とご家族の説得に委ねきっている現状はおかしいと思います。