レナード・バーンスタインの伝記映画『マエストロ: その音楽と愛と』監督&主演、ブラッドリー・クーパーにインタビュー
音楽界の伝説的存在であるレナード・バーンスタインとフェリシア・モンテアレグレ・コーン・バーンスタインの夫妻がともに歩んだ生涯を描く伝記映画『マエストロ: その音楽と愛と』が、12月20日(水)よりNetflixにて配信される。監督、主演、脚本、プロデューサーを務めるブラッドリー・クーパーに、LA在住のジャーナリスト・猿渡由紀が取材した。 【写真つきの記事を読む】クーパーの熱演と見どころをチェック!(全15枚)
「僕たちが作った映画は、彼らを幸せにしたのです」
ブラッドリー・クーパーが、才能の幅広さをあらためて証明した。 『アリー/スター誕生』(2018)で監督デビューを果たしたクーパーの新作は、レナード・バーンスタインの伝記映画『マエストロ:その音楽と愛と』。今作でも、監督、主演、脚本家、プロデューサーを兼任する。『アリー』でもミュージシャンを演じ、音楽のセンスがあることを証明したが、クーパーが今回演じるのは、世界に名を知られる巨匠だ。そんな役に挑むだけでもプレッシャーに違いないのに、クーパーは、もっと大きな責任をも望んで背負ったのである。 「子どもの頃、わが家では、いつもオペラやクラシック音楽が流れていました。僕はなぜか指揮者に魅了されていて、真似をするのが好きでした。本当に何時間も、オーケストラの指揮をするふりをしては楽しんだものですよ。だから、レナード・バーンスタインについてのプロジェクトがあると知ると、強い興味を持ったのです。自分に主演、監督、脚本が務まるかどうかなんてわからないまま、権利を持っていたスティーヴン・スピルバーグに、僕にやらせてくれないかとお願いしました。すべてはそこから始まったのです」 共同脚本家のジョシュ・シンガーは、クーパーがやってくる前からこのプロジェクトに携わっていた。 「この作品を任せてもらえると決まった時、僕はジョシュに、新しい旅についてきてくれないかと誘いました。彼が受け入れてくれて、嬉しかったです。それまでにも彼はバーンスタインについて多くのリサーチをしていましたが、僕もまた、バーンスタインを知る人たちに会って話をするなどして、どんどん知識を深めていきました。そんななか、彼らは、バーンスタイン夫妻のことを、いつも“レニーとフェリシア”と呼び、決して“レニーと妻”とは呼ばないことに気づいたのです。レニーだけでなく、フェリシアもまた影響力を持つ人だったということ。そして僕は、この映画を2人に焦点を当てたものにしようと思うようになりました。普通とは違う、オープンで、ミステリアスで、ファニーなこの関係を描きたい、と」 その大事な相手役にクーパーが抜擢したのは、イギリス人俳優のキャリー・マリガン。マリガンに声をかけたのは2018年と、今から5年前だ。バーンスタインの子どもたちにマリガンを紹介すると、「完璧なチョイスです」と喜ばれたと、クーパーは振り返る。脚本が書かれている間も、マリガンは、アメリカに来る機会があるとクーパーの家を訪れ、クーパー、シンガーと一緒に台詞読みをしては、役の準備を重ねていった。 クーパーも、役作りのために実に長い時間をかけている。それは、撮影が始まってからも終わらなかった。 「役作りを始めたのは6年前。『アリー』が公開される前です。最初は怖くてたまりませんでした。やっていくうちに少しずつリラックスしていきましたが、また逆戻りするという繰り返し。例えば、声も大変でした。『アメリカン・スナイパー』(2014)、『アリー』、『ナイトメア・アリー』(2021)でもお世話になったダイアレクトコーチ(方言コーチ)についてもらって、週5日、1日あたり4時間、レニーの声をマスターするための練習をしたのですが、途中、『僕には無理だ』と思うこともありましたよ。特殊メイクアップアーティストのカズ・ヒロとも、撮影のずっと前からテストを重ねています。メイクを施すのには毎日5時間かかりましたが、その作業の間も僕は寝ていたわけではなく、もっと良くできないかどうか、いろいろ話し合っていました」 そんなクーパーは、親しい人に現場にいてもらうことで、少しでもリラックスしようとしている。 「初日に撮影したのは、年老いたレニーが指揮の仕方を教えるシーン。レニーになった姿でクルーの前に登場するのも、共演者を監督するのも初めてだったので、すごく緊張していました。それで、親友ゲイブ・ファジオに来てもらうことにしたのです。学生時代からの仲である彼がいてくれれば、安心できると思ったので。彼はあのシーンでレニーのアシスタントを演じています。それに、アーロン・コープランドを演じるブライアン・クラグマンは、10年以上の友人。レニーとアーロンは親友でしたが、僕らも同じ。おかげでその部分は演技の必要がありませんでした」 そのように努力を注いだ映画がお披露目されたのは、今年夏のヴェネツィア国際映画祭。だが、ハリウッドでは7月半ばに映画俳優組合のストライキが始まり、メジャースタジオ、配信会社の作品のプロモーション活動も禁止されたため、クーパーは出席することができなかった。それでも、現地の反響はしっかり目撃している。 「僕自身はロサンゼルスにいましたが、現地に行った人が動画を録画して送ってくれたんです。映画が終わってクレジットが流れ始めた時、バーンスタインの子どもたちが立ち上がって、楽しそうに指揮をする真似をし始める様子を見て、僕は感動しました。僕たちが作った映画は、彼らを幸せにしたのです。あれは僕にとって最高の瞬間でしたね」 Netflix映画『マエストロ: その音楽と愛と』12月20日(水)独占配信開始! 取材と文・猿渡由紀、編集・横山芙美(GQ)