プロ初のダウンとリカバリー、″悪童″ネリに戦慄のKO勝利!王者・ 井上尚弥「モンスターたる理由」
世界スーパーバンタム級4冠統一王者の井上尚弥(31)が、ルイス・ネリ(29)を6回1分22秒で屠(ほふ)り、また一つ白星を加えて戦績を27戦全勝24KOとした。 【フォトドキュメント】元プロボクサー写真家が魅せられた「井上尚弥」ベストショット…! 34年ぶりに東京ドームで催されたビッグマッチには「ネクスト・モンスター」つまり、井上に次ぐ実力者として認知されるWBCバンタム級王者、中谷潤人(26)の姿もあった。 「観客4万人強ですか。花道に現れた井上選手の表情から高揚感が伝わりました」 だが、井上は1Rに放った左アッパーに左フックを合わせられ、キャリア初のダウン。大観衆が凍り付く。この初回の攻防に中谷は王者の強さを見ていた。 「ネリのような荒々しいタイプのボクサーと闘う際は、初っ端にいかにパンチをもらわずに目を慣らすかが鍵になります。1Rはまだ体が温まっていないぶん、効きやすいんです。ネリの射程圏内に入ったところで、喰らってしまった。まったく予想していない展開で″これは効いたな″と思いましたが、井上選手は冷静でしたね。慌てず、時間をかけてゆっくりと立ち上がりましたから」 4冠チャンプはピンチに動じない強靭なメンタルの強さを見せる。 「彼の強みは、どんな試合においても己のボクシングを貫く点です。相手を動かして、自分の形に持っていく。ダウンしたすぐ後のラウンドで立て直していて、流石だなと感じました」 2R、パンチを躱(かわ)されてネリがバランスを崩したところに井上が入れたカウンターの左フックに中谷は唸った。 「技術の高さを見せましたね。あれで初回の動揺を打ち消し、ペースを掴みました。2Rの終わりくらいから、ノーモーションの右を再三放っていた。ネリが左腹を狙っていたのを察知し、ボディを引いたまま打っていたのが印象的でした」 打たせず打つ――超次元のテクニックで削られ、ダメージが蓄積。5R、ネリの右のガードが下がったところで、左フックを打ち込んで2度目のダウン。 消耗し、防御意識とスピードを失ったネリが沈むのは時間の問題だった。 「フィニッシュは、右アッパーからの右ストレート。ネリの動きがスローになっていたので、リズムに乗った井上選手が流れの中から連打しましたね。同じ右からの連打はすごく難しいのですが、ドンピシャでした。立ち上がりの集中力の大切さ、相手のパンチを外すことの重要性を改めて教えられた気がします。何より、東京ドームを満員にしたビッグマッチの成功に脱帽です」 井上は「モンスターたる所以」を十二分に発揮した。この日の興行でスーパーバンタムの一つ下、バンタム級4団体の王者全員が日本人となった。王座統一を目指す、中谷が次に狙うのは井上となろう。 激闘から一夜明け、モンスターは王座返上も示唆した。4団体の頂点に君臨する限り、次々と指名試合をこなさねばならないからだ。日本か、中東か、あるいは欧州か――世界が認めた伝説の男は今後、ビッグマッチをゆっくり吟味する。 『FRIDAY』2024年5月24日号より 取材・文:林 壮一(ノンフィクションライター)
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