「麻原彰晃」逮捕から20年 キーワードで見るオウム真理教
空中浮揚、血のイニシエーション
さらに、オウム真理教は霊的エネルギーを注入する修行と称し、さまざまな「イニシエーション」を行っていました。オカルト系の月刊誌『ムー』で発表した麻原彰晃の「空中浮揚」写真をはじめ、「シャクティパッド」「立位礼拝」など、当初はヨガの修行を教義の中心に据えていましたが、その後、薬物や機械を使ったオウム独特の「イニシエーション」が本格化。なかでも、麻原の血液を飲む「血のイニシエーション」、麻原のDNAを使用した液体を飲み干す「愛のイニシエーション」、ヘッドギアを使って麻原の脳波を信者の頭部に流す「パーフェクト・サーベーション・イニシエーション」などは信者の潜在意識にも影響し、教団からの脱会を困難にしたとされています。坂本堤弁護士はこうしたイニシエーションを追及したことで一家殺害の被害に遭っています。
省庁制、サティアン、ハルマゲドン、サリン
オウム真理教のもうひとつの特徴は、内部組織として「省庁制」を採用していたことです。教団では地下鉄サリン事件の前年に「国家元首」である麻原彰晃の下に「法王官房」「法王内庁」「外務省」「大蔵省」「自治省」「科学技術省」「諜報省」など、23の省庁を置き、幹部が大臣を務めていました。いわば、オウムは現在の「イスラム国」のような擬似国家組織だったわけです。さらに、山梨県南部の旧上九一色村などに「サティアン」と呼ばれた30棟以上の教団施設を建設し、自動小銃や神経ガスの「サリン」などの化学兵器を密造。外国で軍事訓練を行い、軍事用ヘリコプターを購入、オーストラリアではウランの採掘をして核兵器開発にも着手しようとしていました。 こうした教団の擬似国家、武装化の背景にあったのは「ハルマゲドン」です。ハルマゲドンとは、ヨハネの黙示録に終末の戦いが起こると記されている場所で、世界最終戦争という意味に誤解されることも多い言葉です。1993年に集団自殺事件を起こした米国のカルト教団「ブランチ・ダビディアン」も、やはりハルマゲドンなどの終末思想を唱えていました。オウム真理教では、麻原彰晃が「ハルマゲドン」の具体的な時期を20世紀末と予言し、信者に残された時間は少ないと主張。そこで、麻原が積極的に推し進めたのが、救済のためなら非合法な反社会的活動も許されるとされる教義「タントラ・ヴァジラヤーナ」でした。オウムはその後、1994年から95年にかけて多くの重大事件を起こし、ついに95年3月20日に地下鉄サリン事件を起こしたのです。 しかし、松本死刑囚が逮捕されてから20年が過ぎ、すべての裁判が終わっても、オウム真理教事件が残した課題はいまだに解決していません。この事件を風化させないためにもきちんと検証を行い、政府や捜査機関を含め、教訓を社会に生かしていくことが必要でしょう。 (真屋キヨシ/清談社)