古典歌舞伎の名作から期待高まる新作歌舞伎まで。熱気あふれる「八月納涼歌舞伎」華やかに開幕
月公演「八月納涼歌舞伎」が、8月4日に初日の幕を開けた。納涼歌舞伎は、平成2(1990)年より十八世中村勘三郎(当時 勘九郎)と十世坂東三津五郎(当時 八十助)らを中心に、花形俳優が活躍する公演として人気を博してきた。納涼歌舞伎恒例の三部制で、古典歌舞伎の名作から期待高まる新作歌舞伎、熱の訪れを感じさせる舞踊まで、熱気あふれる舞台が目白押し。その初日オフィシャルレポートをお届けする。 【全ての写真】「八月納涼歌舞伎」各部の舞台写真(全13枚) 第一部の開場前には、松本幸四郎、中村勘九郎、中村七之助、坂東巳之助、坂東新悟、大谷廣太郎、中村米吉、中村児太郎、中村橋之助、中村福之助、中村虎之介、中村歌之助、市川染五郎、中村勘太郎、中村長三郎が、それぞれ直筆の言葉をしたためたうちわを手に、そろいの浴衣で劇場前に登場。幸四郎、勘九郎、七之助、巳之助、新悟、児太郎、橋之助が挨拶し、皆で「歌舞伎座でお待ちしております!」と掛け声をかけると、集まった人々から大きな拍手と声援を受けた。うちわは、公演期間中、出演者31名分を劇場2階ロビーに展示するという。 第一部は、『ゆうれい貸屋(ゆうれいかしや)』から。山本周五郎原作の人情喜劇で、今回坂東巳之助の弥六、中村児太郎の染次、中村勘九郎の又造と、それぞれの父たちが勤めた役々を初役で勤めることで話題の舞台だ。 幕が開くと、江戸は京橋の桶屋。お兼(坂東新悟)と家主平作(坂東彌十郎)が、仕事もせずに出かけてしまった弥六(巳之助)を嘆いている。しかし酒に酔って帰ってきた弥六が聞く耳を持たないため、お兼は実家へと帰ってしまう始末。やがて日が暮れ、弥六のもとに現れたのは美しい芸者の幽霊、染次(児太郎)。女房にしてほしいと申し出る染次と戸惑いつつもまんざらでもない弥六のコミカルなやりとりに、観客からは自然と笑みがこぼれる。やがて染次と夫婦同然の仲となり昼夜逆転の生活を送る弥六は、平作から店賃の滞りがあれば追い出すと言われてしまう。ふたりが店賃を稼ぐ算段として考え付いたのは、恨みを晴らしたい人に幽霊を貸し出す「ゆうれい貸家」。染次は、屑屋の幽霊又蔵(勘九郎)をはじめ、爺の幽霊友八(市川寿猿)、娘の幽霊お千代(中村鶴松)を呼び寄せ、大いに商いは繁盛するが……。 個性豊かな幽霊たちと弥六の軽快なやりとりに笑いながらも、人間の本性をも感じさせる哀愁溢れる人情喜劇に、客席からは大きな拍手が送られた。 続いては、『鵜の殿様(うのとのさま)』。歌舞伎舞踊としては本年2月に博多座「二月花形歌舞伎」にて初演され、好評を博しての再演となる。夏の盛り、大名(市川染五郎)が腰元たち(市川高麗蔵、澤村宗之助、市川笑也)を相手に舞を舞っている。大名は暑さしのぎに太郎冠者(松本幸四郎)を呼び寄せると、故郷の鵜飼の様子を語らせる。 自らも鵜飼ができるかと尋ねる大名に、容易いことだと答える太郎冠者。しかし、太郎冠者は日頃の憂さ晴らしにと、鵜飼をよく知らない大名に鵜の役をさせて……。鵜匠と鵜が縄でつながれている様子を、幸四郎、染五郎親子がまるで本物の縄でつながれているように全身いっぱいでダイナミックに表現。鵜匠と鵜の関係に見立てた可笑しみ溢れる舞踊劇に、客席からは笑いが沸き起こり、快活な雰囲気に包まれた。