アインシュタインはなぜ相対性理論にたどり着いたのか?その思考の背景にはあった当時の科学界が解明できなかった謎
アインシュタインの光!相対性理論の大胆な着想
ここに素晴らしい解決法を提唱したのが、アインシュタインです。 彼はマイケルソンとモーレーの実験結果の意味が、長年科学者が仮定してきたエーテルの存在を棄却することだということに気づいたのです。そして、彼らの実験結果が意味することは、観測者の運動速度によらずに「光の速度は常に同じ」だという結論に至りました。 これは、「光速度不変の原理」とよばれます。 この新しい原理では、どの観測者も対等です。 アインシュタイン以前の考えでは、エーテルを基準とします。つまり、エーテルに対して静止する観測者にとっての光の速度が、基準となる「光速」です。 エーテルに対して運動する観測者が光の速度を測定すれば、その速度は「基準となる速度」と「観測者の運動速度」を合わせたものになります。ここで、合わせると書いたのは、両者の速度をそれらの方向も考慮して合計することです。数学におけるベクトルの合成に対応します。 しかし、アインシュタインが見出した新しい理論では、どの観測者も対等ですから、どの観測者を基準に選んで物理法則を議論してもかまわないのです。ただし、たとえば物体の速度は観測者に依存します。 彼の理論においては、光速はどの観測者にとっても同じ値をとります。仮に観測者が光速で移動したとしても、その観測者が光を見たら、その光の速度は同一の光速のままなのです。したがって、観測者の間に優劣が存在しないのです。 よって、「光速度不変の原理」に基づく物理理論は、観測者同士が同じ立場であり、その相対的な関係で物理量が決まるため「特殊相対性理論」とよびます。この理論の誕生当初は、たんに「相対性理論」とよばれました。
相対性理論ではノーベル賞を受賞していない!
それから10年後、アインシュタインは「一般相対性理論」を世に送り出しました。ちなみに、二つの相対性理論とも、非常に有名な理論ですが、アインシュタインがノーベル物理学賞を受賞した研究成果は、これらの理論ではありません。 当時のノーベル物理学賞の選考委員の一人、グルストランドが、一般相対性理論は不完全な理論であり、その理論に対する授賞に反対したためだと言われています。
浅田 秀樹(弘前大学 理工学研究科 宇宙物理学研究センター センター長・教授)