風鈴の音、虫の音……西洋人には聞こえない? 古来から引き継がれてきた「音」を聞き分ける日本人の耳
α波がいちばん出たのはカンタンで、次にエンマコオロギ、そしてスズムシの順だった。 「ところが、被験者にどの虫の音が心地いいかアンケートをとったところ、1位はエンマコオロギでカンタンは3位。α波の順位と一致しない結果になったのです」 ◆いろいろな虫の音を同時に聞くと、α波が出やすい 「私たちはスズムシの音がきれいだというイメージをもっていますが、実際にはその音を聞く機会は減っている。一方、これらの中で被験者がよく聞いた経験があるのはエンマコオロギ。耳になじんでいることもあって、より心地よいと感じたのではないかと考えています」 鳴き声を聞く環境も大きいのではないかと穂積准教授は言う。 「私たちが脳波を測定したときは、1匹で鳴く虫の音を聞いてもらいました。 けれど、自然の中で虫の音を聞くときは1匹の音だけが聞こえてくることはありません。何匹も鳴いていることもあるでしょうし、いろいろな虫が鳴いているかもしれない。 実際、試しに音が連続するように加工したスズムシの音で脳波を測定したところ、α波の誘発率はカンタンのときより高くなりました。聞く環境も重要なのだと思います」 1/fゆらぎとは規則的な音と不規則な音が絶妙に調和したもの。我々は無意識のうちに虫の音に1/fゆらぎを感じているのかもしれない。 古来から引き継がれてきた虫の音を聞き分ける日本人の耳。虫の音に耳を傾ける機会が減ると、その能力も失われてしまうかもしれない。 「虫の音もそれぞれ違うし、いろいろな自然に触れることは、生き物の多様性を知ることでもあります。 自然体験が難しくなっている昨今ですが、子どものうちから自然に親しみ、季節を感じる体験をしてもらえばと思います。また、自然だけではなく、地域の文化・歴史的な体験に参加して、風情を感じるのもいいですね」 穂積訓 茨城キリスト教大学児童教育学科准教授。「虫の音が人の感性に及ぼす影響」「巣の建築方法とアシナガバチ類の気候適応」などの研究を経て、現在は子どもたちの野外活動をリードし、一緒にさまざまな自然を楽しめるような教員・保育者の育成に注力している。 取材・文:中川いづみ
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