【#佐藤優のシン世界地図探索81】"非対称"なウクライナ最前線
佐藤 この作戦を継続することが可能と考えているとは思えません。 ――いいえ。緩衝地帯を作るのが目的ですが、そのためには占領し続けないとならないが、それは難しい。悩ましいですね。 佐藤 今回の捕虜交換見ましたか? 非対称ではありませんか。 ――見ました。ウクライナ・ロシア間でUAEアラブ首長国連邦の仲介により9月14日に行われ、103人が自国に帰国したと発表しました。 佐藤 そうです。なぜ「非対称」という言葉を使ったかというと、帰還したロシア兵の103人は、8月からウクライナ軍が越境攻撃したロシア南西部クルスク州で捕虜になった兵士です。 それに対して、ウクライナ兵は69人。彼らは2022年春に激戦となったアゾフ連隊や、マリウポリで捕虜になった"昔の人"です。 ――"昔の人"。確かにそうであります。 佐藤 皆、それが変だとなぜ思わないんでしょう? ――多くの人は報道を見て、どこで捕虜になったかまでは考えていない。「ああ良かった、みんな助かった」と。ところが、そのウクライナ兵は"昔の人"だったと、ここが不可思議です。 佐藤 ロシアはクルスクでウクライナ兵を捕虜にしていません。なぜなら、ロシアにとってクルスク奇襲は「対テロ作戦」ですから(参照:【#佐藤優のシン世界地図探索74】生活水準が向上したモスクワから見る「クルスク対テロ作戦」)。しかし、ウクライナ軍はクルスクで捕虜として確保したロシア兵を捕虜交換に出しています。 ――あ、そうでした。露軍がクルスクで展開しているのは「対テロ作戦」で、自国領土に侵入したテロリストたちを駆逐殲滅している。だから、ここには戦時国際法であるジュネーブ条約における「捕虜」は存在しない。 一方、ウクライナ軍は戦争行為としてクルスク奇襲を仕掛けた。だから、そこで行なわれている戦闘行為は「戦争」。ジュネーブ条約を正確に履行して、降伏した露軍兵士たちを「捕虜」として確保しています。 佐藤 そうです。だから、ロシア軍は捕虜を取っていません。ウクライナ軍の軍服を着たテロリストという認識ですから、その場で処理、つまり射殺ということになります。 ――ロシア軍なら、そうなります。 佐藤 でも、この捕虜交換の報道を見てもはっきりしていると思いませんか? ――確かに。両軍の捕虜を取っている時間と場所が違う。 佐藤 なんだか、恐ろしいことが起きていると思いませんか? それで捕虜交換をやっているのは、なんか非対称じゃないですか? ――非対称戦というのは、反体制武装勢力がその国の正規軍と戦う時にやります。国家にとっては、ゲリラ戦で戦う武装勢力の駆逐が難しい。だから、その非対称戦に国家の正規軍は特殊部隊を作って投入しました。 いま、ウクライナ軍とロシア軍の戦いは、捕虜交換が非対称なりました。これで戦争のルールが新しくなってしまいました。 佐藤 本当ですよ。 ――これ、どうなっちゃうんだろう?ということですね。 佐藤 そう、本当にひどい状態です。 次回へ続く。次回の配信は2024年11月1日(金)予定です。 取材・文/小峯隆生