【相双発の新商品】官民でブランド化を(10月4日)
岐阜県から双葉町に進出した浅野撚糸は町内の事業所で、従来に増して品質に優れた撚糸の開発に成功した。高機能のバスタオルに加工し、販売を始めた。こうした「メードイン相双」の新商品を対象に希望と再生をテーマにした統一ブランドを設け、官民一体で国内外に発信してはどうか。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の被災地の経済振興につながる。 浅野撚糸は17年前、肌触りの良い特許取得の撚糸「スーパーゼロ」でバスタオルを製品化した。国内外で1800万枚を売り上げ、「業界の奇跡」と呼ばれた。今回は、糸をよる強さを5~7割程度弱めて柔らかな風合いを実現した。吸水性や耐久性に優れ、使うほどに風合いが増す。 昨年4月に開業した双葉事業所に特殊な機械を導入し、研究を重ねてきた。新たな撚糸を使ったバスタオルは、見た目から「わたのはな」と名付けた。8月に販売を始め、予約を含めて6万5千枚が売れているという。ベトナムなどへの輸出も見据えている。
岐阜県安八町で57年前に創業した浅野撚糸は、水害や安価な海外産の流入などによる倒産の危機を幾度も乗り越え、本県に新たな拠点を構えた。その道のりは、さまざまな苦難をはね返して復興を目指す震災と原発事故の被災地の歩みに重なる。 双葉郡の2021(令和3)年の製造品出荷額は249億円で、原発事故発生前年の2010(平成22)年の23%にとどまっている。一方で、事業再開や企業進出、創業の動きは活発になっている。被災地から生みだされた商品や技術を個別に売り込むのではなく、各社が経験した苦難と再生のドラマを紹介することで付加価値を高め、統一したロゴやキャッチコピーの下で全国にアピールするのも一案だろう。インバウンド(訪日客)にとっては、「フクシマ」のイメージが好転するきっかけになる。 被災地での国の産業支援はこれまで、県外からの企業誘致に力点が置かれてきた印象が強い。今後は進出事業所への「御用聞き」的な訪問活動に力を注ぎ、新技術や商品開発の取り組みを後押しすべきだ。金融機関の協力を得て、そのネットワークを存分に活用し、取引先の開拓も進めてほしい。(菅野龍太)