柄本佑、『光る君へ』最終回にふさわしい圧巻の演技 変化し続けたまひろと道長の関係性
吉高由里子主演の大河ドラマ『光る君へ』(NHK総合)。公式サイト内には出演者の撮影現場からのコメントが聞けるキャストインタビュー動画「君かたり」が公開されている。最終回の放送後には、まひろ/紫式部役の吉高由里子や道長役の柄本佑をはじめ、出演者総勢24名のインタビューが公開された。 【写真】“母と子”のようにも見えるまひろ(吉高由里子)に抱きしめられる道長(柄本佑) 最終回「物語の先に」では、まひろが倫子(黒木華)から道長(柄本佑)との関係を問いただされ、2人のこれまでを打ち明ける場面から始まる。まひろと道長の関係に複雑な思いを抱える倫子だったが、2人の娘を立て続けに失った後、生きる気力を失った道長に力を与えるのはまひろしかいないと考え、まひろを呼び寄せた。 最終回でもまた、柄本の演技が強い印象を残す。まひろは道長のためだけに作った物語を語り聞かせ、道長の魂をつなぎ止める。これまでも、廃屋での逢瀬や石山寺での場面など、まひろと道長のやりとりは描かれてきた。しかし最終回で描かれた2人だけの時間は、これまでになく穏やかながらも心が痛くなるほど切ない。死期が近いことを感じさせる柄本の生々しい演技は見ていて心苦しいが、まひろを見つめるまなざしや力を振り絞って手を伸ばす様にはこれまでと変わらぬまひろへの愛情が確かに感じられ、心を揺さぶられた。 道長を演じてきた柄本は、公式ガイドブックの中で「唯一本音を明かせるのがまひろで、彼女といるときだけは少年期の“三郎”でいられるのだと思います」とコメント。政の場や妻の倫子や明子(瀧内公美)の前ではあまり心の内を見せない道長だが、まひろが話題にあがったり目の前に現れたりすると、その表情に彼の素直な感情がうかがえる。柄本の演技はその匙加減が絶妙で、道長の“鈍感さ”(たとえば第36回での倫子の前でまひろへの思いを態度に出してしまう様など)にハラハラさせられながらも、それだけまひろを一途に思い続けているのだと納得させられてしまう。柄本が向けるまなざしには説得力があるのだ。 最終回では、まひろと言葉を交わすうちに、病床に伏していた道長の目にほんの少しではあるが力が宿る。まひろが「道長様は生きて、私の物語を世に広めてくださいませ」と言った時、「お前はいつも俺に厳しいな」と微笑む道長はとても幸せそうで、再び生きる希望を見出したように見えた。それでもいつか人の命は尽きる。まひろの物語に耳を傾ける道長の表情が徐々に虚ろになっていく様は見ていてつらい。物語を語ることで道長を懸命にこの世につなぎ止めようとするまひろの前で、道長が「生きることは……もうよい……」と口にする場面はあまりにも悲しかった。まひろが「続きはまた明日」と言うと、道長はゆっくりと目を開ける。まひろはほっとしたように微笑んでいたが、道長の目に涙が滲んでいたのが印象的だった。まひろを思う気持ちが失われたわけではないはずだ。けれど、まひろの物語を聞いていたい、まひろとともに生きたいという願いだけでなく、「生きることはもうよい」という思いも本心だと解釈した。その晩、道長はその生涯を閉じる。 柄本はインタビューにて、最後の場面におけるまひろと道長の関係を「母と子みたいな雰囲気」と語った。ソウルメイトから仕事仲間へ、編集と作家のような関係から、最後は母と子のような感じになり、2人の関係がいろんな形に変容していったと言う。関係性が変わっていく様を感じながら、まひろを大切に思う気持ちを一貫し続けた柄本の演技があってこそ、最後の場面はまひろと道長の深い信頼関係がうかがえる感慨深いものになったと思う。最終回にふさわしい圧巻の演技だった。
片山香帆