映画『ゴールド・ボーイ』:岡田将生の怪演で魅せるクライム・エンターテインメント、中国の人気小説が充実の会話劇に
稲垣 貴俊
「中国の東野圭吾」と呼ばれるミステリ作家・紫金陳(ズー・ジンチェン)の人気小説が日本で映画化された。主演・岡田将生、監督・金子修介による『ゴールド・ボーイ』は、物語の舞台を沖縄に置き換えた、アジアの空気を濃厚にまとう頭脳戦のクライム・エンターテインメントだ。
沖縄有数の巨大企業・東ホールディングスの会長夫婦が、海に面した崖の上から落ちて死亡した。現場に同行していたのは娘婿の東昇(岡田将生)だけで目撃者はいない。警察は捜査の結果、会長が服用していた薬の副作用でめまいを起こし、支えようとした妻もろとも転落した事故死と判断した。 ところが、海岸にいた3人の少年たちが撮影した映像には、会長夫婦が同行者に崖から突き落とされる様子が映り込んでいた。13歳の安室朝陽(羽村仁成)と、友人の上間浩(前出燿志)、その義理の妹・夏月(星乃あんな)は、写真を撮ろうとしていたところ、偶然にも事件の決定的瞬間を記録してしまったのだ。 東ホールディングスは、かつて政府や政治家と結託して巨財を築いたと噂される一族の企業であり、死亡した会長も軍用地投資で儲けたとされる富豪だ。転落死のニュースを知った朝陽は、映像を証拠として昇から大金をゆすり取ろうと考える。金さえあれば、母とふたり暮らしの朝陽にも、家族から離れて行き場のない浩と夏月にも、違った未来の可能性が開かれるかもしれない──。
中国のベストセラー小説、沖縄を舞台に翻案
原作は中国のサスペンス/ミステリ小説をけん引する人気作家・紫金陳の『坏小孩』 (悪童たち)。2020年には本国で『バッド・キッズ 隠秘之罪』としてドラマ化されるや、総再生回数20億回(※iQIYI JAPAN調べ)を記録するほどの社会現象となった人気作だ。 もっとも原作小説と『バッド・キッズ 隠秘之罪』は、「少年たちが殺人事件の瞬間を記録してしまう」というコンセプトこそ同じだが、ストーリー展開やキャラクターの設定が大きく異なる。ドラマ版は全12話という長尺を活かし、登場人物の心理を原作以上に掘り下げた脚色で高く評価された。 その一方で『ゴールド・ボーイ』は、紫金陳が執筆した原作小説『坏小孩』(悪童たち)の映画化として構想されたものであり、本来の物語に忠実かつ、要所に独自の解釈を加えた作品となった。原作とドラマの存在は知っている……という海外小説・ドラマファンにとっても、小説の本質をぎゅっと凝縮したような本作は格好の入門編と言えるのではないか。まずはこの映画を観てから、あとで原作とドラマの語り口を堪能するのも楽しい物語体験になるはずだ。 監督を務めたのは、日本映画界で長年のキャリアを誇る金子修介。実写版『デスノート』(06)『デスノート the Last name』(06)以来、久々にアンモラルな頭脳戦・心理戦のクライム・エンターテインメントに挑戦することとなった。なにしろ殺人犯の東昇を追いかけるのは、証拠映像をエサに彼を脅迫する少年たちなのである。 昇と朝陽たちは、世間の常識や倫理を蹴り飛ばしながら、ひたすら目的に向かって突き進む。人々の思惑が錯綜するプロットは悲劇的で血なまぐさいが、沖縄の街や自然は原作の世界観に重なるアジアの空気をまとっており、柳島克己の撮影もあいまって、全編がどこかカラリと乾いたトーンになっているところが興味深い。