障がい者支援施設で職員が利用者に暴行逮捕「噛まれて血を流しても耐えて」信頼を得る施設現場の葛藤
昨年11月、障害がある子供が通う放課後等デイサービスで、利用者の高校生に暴行を加えたとして大阪府吹田市のデイサービス「アルプスの森」の代表、宇津慎史氏(60)と職員の男2人が暴行の疑いで逮捕された。 【衝撃画像】30年前に波紋扱い…元暴力団員「若い女性を人質に立てこもり」戦慄の素顔と生々しい現場写真 宇津被告らは、重度の知的障害や自傷行為が激しい強度行動障害があった利用者に対して頭突きなどをしたほか、頭を殴ったり、馬乗りになって床に頭をたたきつけたりした疑いが持たれて、昨年12月12日に暴行罪などで起訴されていた。 この放課後等デイサービスは、過去にも事件を起こしており、警察の捜査の過程で、防犯カメラに暴行の一部始終が映っていたことで、犯行が明るみになった。 「アルプスの森」が受け入れていた利用者は比較的重度の障害があった子供が多かったとされる。 「この事件を見て、思ったのは、運営者がプロになりきれていなかった。それに尽きます。中には、利用者を恐怖でコントロールする支援者がいるのも事実です。そういった支援者はプロではない。利用者を落ち着かせるのに、暴力や過激な言葉はいらないんです。過激な対応を支援者が取ることで、利用者を逆上させ、さらにパニックに陥らせることもあるので。暴力が出るなんて、利用者のペースに巻き込まれているだけであって、支援者側のペースに利用者をのせないといけない。甘く見られてはいけない、でも恐怖で支配することとはまた違う。利用者を落ち着かせる力を支援者側が身につけることが、この現場では非常に重要になってきます」 そう話すのは、重度の知的障害者たちが暮らす入所施設で働くAさんだ。この入所施設は子供が通っているわけではないが、障がい者支援施設で働く人たちに求められる、根底にある要素は同じだ。Aさんは、さらにこう続ける。 「私が働いている施設にも多くの強度行動障害の方が暮らしています。パニックになられる方もいますし、一人がパニックになったら、それが連動し、その場いったいがパニックになることもある。でも、そこで感情に負けてはいけないのです」 Aさんは、今回の吹田の事件に関し、施設の代表に障害児者を支援する資質、力量がなかったと一刀両断する。 「嫌いとか腹が立つとか、そんなのふっとばして、物事を客観的にみる力が支援者には求められる。何が目の前で起こっていても、一瞬で自分の感情を“無”にする、それは経験や、いろんな利用者を支援して獲得していったもので、支援者側の“力”なんですよ。落ち着かせる空気感を作り上げる。人間力というか、相手を見る力が長けた人が、全体を落ち着かせることができるんです。吹田の事件では、トップに立っている人にその資質がなかったということがかなりの問題ですね」 重度の知的障害や強度行動障害がある障害者も、こちらの声かけや配慮で人が変わったように落ち着く場面を多く経験してきたAさん。 「私が担当した方で、女性で、40歳ぐらいまで地域に住んでいて、施設に来られた方がいました。入所されてからは、しばらくはお腹をけられたり、叩かれたり、噛みつかれて血も流れたりで、常に逆上してすごかったんです。でもそこでひるんではいけない。噛まれて、血を流しながらも、『これは何」って利用者さんに見せ続ける。何が悪いことか、いけないことか、言葉で難しい部分もあるので、傷跡を見せて、理解してもらう。 相手が私を信用してくれるまで、とことん体を張って付き合うことが支援者にも求められるのです。その人の要求をここまでは聞くけれど、これ以上は聞かない、とちゃんと線引きして信頼関係を構築していくのです」