元ピクサーのアニメーターが語る「ハリウッドでAIが通用しない理由」
昨今、AIが生成した動画が良くも悪くも常に話題になっています。ネタ動画を作るだけではなくて、これでプロの現場・ハリウッドも劇的に変わるのではないか?という声も聞こえてきます。 その問いに「No」と答えるのは、『トイ・ストーリー』や『ファインディング・ニモ』などの制作に携わった、元Pixarアニメーターのクレイグ・グッドさん。 グッドさんいわく、AIをプロの現場で使うには、関係者全員をイラつかせてしまう大きな欠点があるといいます。それは、微調整が効かないこと。 生成AIは、作りたいものをテキストで入力するだけで画像や動画を作り出します。何もないゼロ状態から作り出されるものとして、正直驚くべき出来です。ただ、現時点では、そうやってできたものをちょっとだけ変えるという修正ツールはありません。それが致命的。なぜなら、そのちょっといじるという微調整が映画制作現場では日常茶飯事であり必要不可欠だからです。 グッドさんが助教授として務めるカリフォルニア美術大学の生徒と、AI生成動画についてディスカッションする動画を公開。動画では、OpenAIの動画AI Soraが生成した動画を見ながらトークを展開しています。 グッドさん「もし、これを制作で使うとしたら、最初に気になるのは修正はどうするつもり?ということですね。もし、この映像の背景が嫌だとなった場合、まったく同じものを背景なしまたは別の背景にすり替えて作るという調整はできるのでしょうか」 現時点で、OpenAIのSoraは一般公開されていません。 なので、このトークはあくまでもアーリーアクセス権を得た一部のアーティストが生成したサンプル動画を見ての話。ゆえに、動画生成をしたアーティストがどのようにツールを使い、どのような選択肢があったのかはわかりません。 生成したものが調整可能か、可能であればどの程度できるのか、わからないことだらけ。グッド氏のトークは、現時点でその不明な点を指摘するものです。 グッド氏と生徒がサンプルとして見たのは、Sora生成のアニメーション。モフモフとしたかわいいモンスターがキャンドルを触ろうと戯れるというシーンです。グッド氏は、その出来に感心しつつも、画がタイトすぎること、また炎にまったく動きがなく存在が薄いことを指摘。この指摘にそって微調整するとしたら、もう少し引きのカメラワークで、炎にも揺らぎをつけるということになりますが、このちょっとした変更は、現時点でAIにとっては非常に難しいタスク。 「映画制作は繰り返しの連続です。何度も繰り返してこそ」と語るグッド氏。「私はPixarで何十年もシーンの微調整をしてきました。監督がアニメーターに詳細を書いたメモを渡し、アニメーター・アーティストはそのメモに沿って調整をかける。翌日それを監督に見せ、さらに細かい指示を受ける。それができないとなれば、制作現場のツールとしてどれだけ使えるかわかりませんね」 グッド氏だけでなく、X上では同じ視点から生成AIのもつ制限を指摘する声が拡散され、注目されたことも。このXポストのソースはハッキリしないものの、自称大手スタジオのアートディレクターで、スタジオがAI開発者を連れてはきたがまったく役に立たなかったと語っています。問題は同じで、AI生成された映像自体は悪くなかったものの、微調整がきかず制作には使えなかったというもの。微調整を求められたAI開発者の方が、そういう仕組みじゃないのに!と怒ってしまったというオマケエピソードつき。 プロの目で見ると、TikTokなどのユーザー生成コンテンツでは大いに活躍するものの、プロの映画制作現場では役不足だという生成AI。 一方で、グッド氏は「今後はわからない」とも語っています。役不足なのはあくまでも現時点のSoraなどの生成AI。将来的に大きく変わっていく可能性はあるといいます。 1980年代のコンピューターグラフィックスを例にだし「機械的に歩くアリの映像を見たSIGGRAPHの初期の頃を思い出します。あれにはみんなとても驚きました。とんでもないものを見させられているぞって。1984年の話です」
そうこ