【名手の名言】ボビー・ロック「“あるがまま”とはボールのライだけではない」
レジェンドと呼ばれるゴルフの名手たちは、その言葉にも重みがある。今回は南アフリカ初のメジャーチャンピオン、ボビー・ロックの言葉を2つご紹介!
「“あるがまま”とはボールのライだけではなく、体調、自然天候、時間環境などすべてが包括されている」
“Play the ball as it lies.” ――あるがままのライでボールを打つ、というのはゴルフの大原則である。つまりはプレー中、ボールには触るな、ということである。 公平さを保つということはもちろん、それによって、ゴルフが奥深いゲームとして成立するからだ。 放たれたボールが落下してどういう状態になるか、神のみぞ知る。運よく木に跳ね返ってフェアウェイ―に戻ってくることもあれば、フェアウェイど真ん中のディボット跡にボールが入ってしまうこともある。これらは自然の中でやるからこそ起こることで、だからこそゴルフは面白くなる。もしボールを好きなライに動かせたら、広大な人工芝でプレーしているのと同じになってしまう。 ボビー・ロックは、このゴルフの大原則を、もう一歩先に進めた言葉を残した。 自分の体調も生物である以上、好不調の波があるのは当然であろう。天候や自然の在りようはいうまでもなく、変幻自在が自然の摂理。 スタート時間や、ラウンドするプレーヤーの組み合わせ。それらは自分で規定したり、決められるものではなく、すべて“あるがまま”でしかない。 その“あるがまま”に身をゆだねながら、自分を表現していく。ここにロックはゴルフという競技の神髄を見出したのである。 ただ、ロックはその“あるがまま”を重んじるあまり、自分のペースを守りすぎ、超スロープレーヤーといわれた。 今ならスロープレーとしてペナルティを課されるほどで、賛否両論がいまだに聴かれるのは致し方のないことだろう。
「わたしのパターは無事だったかね?」
全英オープンを4回制しているボビー・ロックは1959年、故郷の南アで交通事故を起こした。 踏み切りで列車と衝突し、意識不明に陥ったのだが、幸いにも意識が戻って、発した最初の言葉がこれである。 ロックは幼い頃、父が薦めた球聖ボビー・ジョーンズの本をバイブルとし、その中にあった「3を2に変えて勝つ」に感銘を受けたという。 つまり、3パットしそうなところは絶対に2パットでしのぎ、グリーン周りでも、3打ではなく、アプローチを必ず寄せて1パット(2打)で上がる。これが1ラウンドで4回あるとすれば、4ラウンドで16打縮めることになる。 というわけで、ロックは幼い頃からショートゲームに熱をいれて練習したという。パットは1ラウンド30パットをめざし、それが28パットに到達するようになってから、目覚しい戦績を残している。 スウィングは極端なクローズスタンスで、フック一辺倒。「鯨が転げまわる格好のスウィング」と評された。「ふるまい、風貌、私の周りにいる仲間の中でいちばん不思議」とジーン・サラゼンは印象を語っている。 しかしパットの名手ぶりは、3フィート(約1メートル)を外しただけで話題にあがるほどだった。 そんなロックだったからこそ、冒頭の状況で、真っ先にパターのことを気にかけたのもうなずける話だ。 そのパターは古くて、シャフトもヘッドも錆びついていたが、ロックにとってはまさに「命」だったのである。 ■ボビー・ロック(1917~1987年) 南アフリカ生まれ。父親は北アイルランドからの移住で、運動具店を家業にして成功。その父親からボビー・ジョーンズの本を与えられ、薫陶を受け、18歳で南アオープンに優勝。38年プロ入りした年にニュージーランド、アイルランド両オープン、次の年にはオランダオープンを制している。米ツアーへは47年から2年半参戦し、59試合に出て13勝、2位が10回と赫々たる戦績を残している。その後なぜか米ツアーには背を向け、全英オープン4回優勝。他にフランス、アイルランド、スイス、ドイツ、エジプト、オーストラリア、メキシコ、カナダの各オープンも制している。