“円安・株高”の現在、過熱感も警戒されるが…投資のプロが注目する「さらなる株高」の材料とは
米国の利下げを阻むもう1つのハードル
荒磯「利下げのもう1つのハードルは、『インフレ』です。FRBが最後に利上げしたのは2023年7月ですが、これ以降、CPI上昇率が鈍化してきました。今後は、消費も鈍ってくると考えられることから、利下げの条件を徐々に満たしていくとみています。 2023年12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、FRBが金融政策の姿勢を引き締めから中立に落とすイメージを持っていることが伺えましたが、市場は早期に緩和まで行ってほしいと期待しており、まだ思いのズレがあるようです。 しばらくは、市場が利下げを督促し、FRBがそれをけん制する流れが続くのではないでしょうか」
投資は「強気」で臨むべきか?
――方向性として利下げに向かうのであれば、投資は強気で臨んだほうがいいのでしょうか? 荒磯「現在はインフレの環境下であり、過去のケースと違って、景気減速に先んじての利下げとならない点は、2024年のトリッキーなところです。景気が減速した際のダウンサイドについて、お話します。 [図表3]は、国がGDPに対してどれくらい借金をしているかを表す『公的債務対GDP比』です。 縦軸の上に行くほど借金が多い状態を表しており、青線が示す米国政府の借金の金額は、第2次世界大戦の時を超えるくらいの水準になっています。新型コロナのパンデミック対策や、 地政学イベントに関連する国際支援、軍事費の増加などにより借金が増えています。 このため今後、景気が弱ってきた局面でも、さまざまな景気刺激策を打ち出すことが難しくなっている点は、注意が必要です。 また、これまで世界経済拡大の一翼を担ってきた新興国も、投資における頼もしい存在ではなくなりつつあります。中国は、公的債務が急増しているだけでなく、不動産関連の問題にからむ民間債務も増えており、景気刺激策を講じづらい状況にあります」
2024年、注目は“滞留資金”の行方
――足元では、どのような資産が注目されていますか。 荒磯「2023年12月に史上最高値を更新したゴールドに資金が流入しています。“有事の金”と言われるように、世の中が不安定なときは実物資産にお金を逃がし、資産を保全する動きがみられます」 ――中国でも不動産が買いにくくなり、若者がゴールドを買っているというニュースがありましたね。金融商品の注目はありますか。 荒磯「[図表4]は、2023年のファンドごとの投資資金の流入を表したグラフです。2023年は、株式にも債券にも大きな資金が向かいませんでした。フローが集中したのは、短期の公社債などで運用する比較的安全性が高いマネー・マーケット・ファンド(MMF)でした」 ――2022年は株式も債券も下落したことから、2023年は投資家がMMFに資産を移していたということでしょうか。 荒磯「はい。ただ、この先、市場で利下げが織り込まれてくると、MMFの利回りが大幅に下がる可能性があり、2024年のどこかでMMFの大量資金が別の資産へ移っていくことが十分考えられます。 もっとも可能性が高い移管先は、MMFとプロファイルが似ている信用力の高い債券だと思いますが、株式を含む成長資産にもプラスでしょう。金利低下の局面で、いろいろな資産を買うチャンスが出てくることが、2024年最大のポイントです。 一方、金が買われているように、相場のリスク回避の姿勢には根深い部分が感じられます。少なくとも2024年の上半期は、2023年よりも景気が減速しそうですから、『金利が低下する』という見通しがなければ、利益獲得が難しい相場が続きそうです。 むしろ、景気が下ぶれるくらいのほうが金利低下の確信が強まりやすく、ムードが一気に好転する可能性があるのではないかとみています。成長分野の企業や、高金利のインカムを活用して資産を守りつつ、相場のチャンスを見極めることが重要です」 ――足元、MMFやゴールドなどに滞留資金が積み上がっている状況は、資産運用にとってむしろ好材料です。金利低下のスピードが早まれば、金融市場にもプラスとなり、株高を演出する材料となります。この点をうまく資産運用に生かしたいですね。 <<<【AB’s Market Tips】#9 2024年、景気減速にこそチャンスあり>>>
荒磯 亘