彫刻の森(9月27日)
彫刻家の目には、ありふれた日常が一風変わって映るようだ。本県にゆかりのある佐藤忠良さんは、教えた学生に木の根を掘らせたという。どれほどつらい思いをして幹を支えているか、感じ取らなければいけないと考えた▼自然と自分を一つにして、その息吹を間近に感じる。観察は創作の第一歩。佐藤さんはモデルになる人を「目で触る」と語った。そんな目を持つ彫刻家の作品が来月、泉崎村に集まる。国内外の25人が、視覚世界を形にした。自然の中に立体作品が溶け込む光景が広がる▼新型コロナウイルスで村内の活動が停滞した。何とか活気を取り戻せないか、そうした思いを抱いた主催者の目に、風に枝を揺らす泉崎の自然が映った。長年身を置いた美術界で培った人脈を役立て、村の全面的な協力を得て実現させた。野外と屋内、展示場所の提供に終わらない。声をかけ合った作家同士の交流の場ともなる▼佐藤さんが描いた絵本「おおきなかぶ」は、3回描き直したという。引き抜く姿が押し込んでいるように見えて仕方なかったらしい。何度でもやり直せばいい―。残された作品は創作哲学を物語る。コロナ禍からの村の再生。彫刻展はその舞台となる。<2024・9・27>