崖っぷちから掴んだ“未来”。スーパーフォーミュラ昇格の木村偉織が明かす「SFライツでチャンピオンを獲れなかったらここにはいなかったと思う」
2024年にSan-Ei Gen with B-Maxからスーパーフォーミュラに参戦する木村偉織。24歳でのトップフォーミュラ昇格は「遅咲き」と表現するには若すぎるが、三宅淳詞、太田格之進、岩佐歩夢など、同年代でスクール同期のドライバーたちからやや後れをとりながら、それでも確かな実績を残して最高峰カテゴリーにステップアップしてきたドライバーだ。 【動画】スーパーフォーミュラを活用した“人工自我”!? 東大教授研究 木村は2022年からホンダの育成ドライバーとしてスーパーフォーミュラ・ライツ(SFライツ)に参戦開始。同年は小高一斗、太田に次ぐランキング3位となった。そして2023年シーズンは、トヨタの育成ドライバーである平良響との一騎討ちとなった。 開幕のオートポリスラウンドで3連勝した木村だったが、以降は平良がコンスタントに好成績をあげて優勢となり、ポイントリーダーとして最終もてぎラウンドに乗り込んだ。しかし木村はそこで2連続ポールトゥウインを記録するなど逆転を果たし、見事タイトルを獲得した。 このタイトルは自身のキャリアにとって大きなものだったと思うかと尋ねると、木村はこう語った。 「おそらく、(SFライツで)チャンピオンを獲っていなかったら僕はここにはいなかったと思います。そういう意味ではすごく重要なタイトルだったと思っています」 ここ10年間で、ホンダの育成ドライバーがSFライツ(F3)で3年目を迎えた例はほとんどない。そういった背景や今回のコメントを踏まえると、もし木村がSFライツのタイトルを逃していれば、今季のスーパーフォーミュラ昇格が幻になっただけでなく、ホンダからのサポート自体が終了していた可能性もあったと言える。 一方ランキング2位に終わった平良は、スーパーフォーミュラへのステップアップを逃す形に。関係者に話を聞く限りは、平良がSFライツでチャンピオンを獲得していた場合、トップフォーミュラ昇格の可能性が高まっていたことは確かなようだ。2023年のSFライツは、ふたりの若者の命運を分けたシーズンと言えるかもしれない。 そのようなプレッシャーのかかる環境でタイトルを獲得したことは自信に繋がるかと木村に問うと、「自信になるというよりも、『ここ(SF)にいなきゃいけない』という気持ちで、逆に『チャンピオン獲れなかったらおかしい』というくらい自分の中で頑張っていました。そういう意味では、自分自身を疑うことはなかったです」とのこと。並々ならぬ覚悟でシーズンに臨んでいたことを明かした。 また今季の木村の担当エンジニアで、SFライツ時代から木村の成長を見届けてきた宮田雅史エンジニアも、「レースで強くなったと思います。(SFライツ)初年度は速さはありましたが、自分でとっ散らかってダメにしちゃうレースもありました。ただ去年はそういうものがなく、人として成長したなと思いました」と評価。本山哲監督も「昨年オフのテストは、思ったより走ってくれたというのが正直なところ。思ったよりも速く走れるドライバーで安心しました」として、「緊張したり色々あると思いますが、あまり考えずにただ一生懸命速く走ろうとしてくれれば」と期待を寄せた。 テストでは最終日に11番手タイムを記録するなど、まずまずのリザルトを残した木村。木村と同じルーキーには岩佐やテオ・プルシェールなど強敵揃いだが、速さを結果に結び付けることを目標に、ルーキー・オブ・ザ・イヤー獲得も視野に入れてシーズンを戦っていく。
戎井健一郎
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