新型シボレー・コルベットがアメリカの威信をかけた、サラブレッドスーパースポーツである理由とは?「これが最後の自然吸気のアメリカンV8か……」
ミドシップ・レイアウトを採用したシボレー「コルベット」にあらためて今尾直樹が試乗した。“アメ車”ならではの魅力とは? 【写真を見る】新型コルベットの細部を公開(17枚)
モータースポーツでのさらなる戦闘力アップ
スーパーカーは空間をゆがめる力を持っている。ここでは仮にそう定義してみよう。あるいは、空間をゆがめる力を持っているクルマをスーパーカーと呼ぶ、と。 2019年発表の、8代目にしてエンジンの搭載位置をフロントからミドに移動したシボレー・コルベットはまさにそれだ。ブルーのC8コルベットが神宮外苑(東京都)のイチョウ並木にあわれたとき、別の世界からやってきた乗り物であるかのように私には思えた。 C8コルベットの運転席に乗り込む。ドアはフツウに開く。カモメやハサミのように開いたりはしない。ただ、樹脂製のドアは奇妙なほど軽い。フロントにエンジンがない。ということで、コルベット初の右ハンドルが実現している。初物にしてはドライビング・ポジションに違和感がない。ステアリングホイールはスクウェア気味になっていて、パッド中央のコルベット・レーシングのVの字型の紋章がドライバーにモータースポーツでの輝かしい数多の勝利を訴えている。 コクピットはセンターコンソールが大きく張り出していて意外と狭い。スポーティなシートは身体にピッタリ、フィットする感じがする。年産4万台のうち、95%はアメリカ国内向けというのに、こんなにタイトで不満は出ないのか? と、余計な心配をしてしまう。サラブレッドスポーツカーのコルベットのオーナー層にはこれでよいのだろう。 ボディの3サイズは全長4630×全幅1940×全高1225mmで、ホイールベースは2725mm。V8エンジンを縦置きするフェラーリ「F8トリブート」と較べると、20mmほど長くて、40mmほどスレンダーで、20mmほど背が高いだけだ。つまり、さほど変わらない。F8トリブートのホイールベースは「458イタリア」から普遍の2650mmで、C8は75mmも長いのは居住空間の確保とスタビリティ重視だろう。 前述したようにセンターコンソールの張り出しのせいでタイトに感じるものの、足元は広い。日常での実用性の重視はC8の特徴のひとつで、トランクルームが前後に設けられている。最低地上高もスーパーカーとしては高めだ。その意味ではホンダの初代「NSX」と通じるものがある。 もっとも、C8コルベットがミドシップに転向したのは、モータースポーツでのさらなる戦闘力アップが主な理由とされているから、その点は大いに異なる。初代NSXの狙いはF1に近いロードカーであって、レース参戦は主な目的ではなかった。