半導体露光装置から宇宙へ――京セラのセラミック材料、新市場で展開拡大
京セラのコージライトミラー、その性能の詳細
光学ミラーとして使用されているさまざまな基板の材料と比較しても、同社のコージライトが高い温度安定性を有し、比剛性も低熱膨張ガラスより1.5~2倍高いことが分かる(下図内左表)。また、長期寸法安定性についてのテストした結果でも、低熱膨張ガラスを上回る性能を有していることが確認できたという(下図内右表) そしてミラーとして重要な表面粗さや平面度についても、精密な表面研磨およびコーティング技術などを生かして高い特性を実現。宇宙関連および天体望遠鏡で用いられるミラーを開発/提供している。なお、ミラー以外にも構造部品や、ミラー含めて複数の部品を組み合わせた光学系システム(全体を同じ材料で構成するのでアサーマル化が実現できる)としても使用されているという。 また、特に宇宙関連ではガンマ線や原子状酸素への耐性も重要となるが、この点も、機械的、熱的および光学的な特性の全てで、ガンマ線/原子状酸素を当てた前後で変化がほとんどないことが実験で確認できているという。神浦氏は「宇宙向けのアプリケーションとして優位な材料だ」と強調していた。
「世界初」宇宙ステーションの小型光通信実験装置に載った
前述の通り、既存の低熱膨張ガラスを上回るさまざまな特長を有するというコージライトだが、宇宙産業では、新たな材料の採用において宇宙での実績を重視する傾向があり、採用はなかなか進まなかったという。 京セラは、各メーカーへの売り込みや展示会やカンファレンスにおける地道なPR活動を継続。そうした中で2024年6月、京セラは国際宇宙ステーション(ISS)に設置された小型光通信実験装置に、コージライト製のミラーとして「世界で初めて」(同社)採用されたことを発表した。ここではISSから地上への光通信の際、光を最適な角度に調節するためのミラーとして同社のコージライトが採用され、実際に低軌道上のISSから地上の可搬型光地上局への光通信を実現。神浦氏は、「この宇宙実績は一つの大きなターニングポイントだ」し、今後の採用拡大への期待を示していた。 宇宙産業は、2040年には100兆円規模に拡大するといった予測(モルガン・スタンレーによる)もあるなど活況だ。国際的な競争も加速していて、日本でも今後10年間で政府が総額1兆円規模の支援を行う方針の「宇宙戦略基金」が立ち上がった。京セラはこの成長市場での存在感を高め、宇宙関連の事業規模を2029年度に現在の5億円程度から、6倍となる30億円に拡大することを目指している。
EE Times Japan