「アル・カポネ」の潜伏場所は中国人労働者によって作られていた!?…「壮絶な中国人排斥」が生んだ「秘密の地下道」
北米中華、キューバ中華、アルゼンチン中華、そして日本の町中華の味は? 北極圏にある人口8万人にも満たないノルウェーの小さな町、アフリカ大陸の東に浮かぶ島国・マダガスカル、インド洋の小国・モーリシャス……。 世界の果てまで行っても、中国人経営の中華料理店はある。彼らはいつ、どのようにして、その地にたどりつき、なぜ、どのような思いで中華料理店を開いたのか? 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 一国一城の主や料理人、家族、地元の華人コミュニティの姿を丹念にあぶり出した関卓中(著)・斎藤栄一郎(訳)の 『地球上の中華料理店をめぐる冒険』。食を足がかりに、離散中国人の歴史的背景や状況、アイデンティティへの意識を浮き彫りにする話題作から、内容を抜粋して紹介する。 『地球上の中華料理店をめぐる冒険』連載第15回 『「よそ者」の中国人移民が「町長候補」に推薦! …差別に晒されながらも模範市民として生きるある中国系カナダ人の半生』より続く
ムースジョーの地下道
取材の一環でムースジョーに日帰りで足を延ばした。ここにはジムのペーパー・ファーザーの墓がある。何もない吹きっさらしの道路を車で2時間。 車窓からは見渡す限りの雪景色だ。後部座席でジムとフォンの軽口が止まらない。ふさふさの帽子に耳当て姿の2人は見るからにおもしろいと私がからかう。 ムースジョーは、カナダ西部でも特に未開拓の風景で知られる。メインストリートの下にはトンネルが張り巡らされていて、かつての鉄道建設に来た中国人労働者が長年地下道に暮らしていた。 1908年ごろに掘られたもので、その背景には、仕事を奪われたと思い込んだ白人たちが中国人鉄道労働者をめった打ちにした事件があった。
移民の墓
カナダ西部は、黄禍論(訳注:黄色人種の台頭を恐れた白色人種が唱えた黄色人種排斥論)を背景に過剰反応が渦巻き、中国人移民労働者は文字どおり地下に潜るほかなく、華人経営の会社や店舗の真下に秘密の地下道を掘り、状況が改善するまで潜伏できる体制を整えていた。 1920年代の禁酒法時代、シカゴのギャングは、FBIの目をかいくぐって、こうした地下道をギャンブルや売春、密造酒の貯蔵に利用していた。 場合によっては中国人を雇って密輸の片棒を担がせたり、コックや洗濯屋として使ったりしていた。アル・カポネもここに潜伏していたらしい。 ムースジョーに住むナンシー・グレイは、地元新聞の記者から取材を受け、自分の父親が地下道に呼ばれてカポネの散髪を請け負ったことがあると答えている。今では地下道は観光スポットになっている。駅の隣にはカポネズ・ハイダウェイ・モーテルがある。 ローズデール墓地は厚い雪に覆われていた。しばらくしてフォンがようやく周瑞濯の墓の位置を見つけ出した。先頭を歩いていたジムは、ここを訪れることにあまり乗り気ではなかった。 「ああ、あれで間違いない」 そう言いながら、戻ってきた。 「お母さんのお墓はどこに?」 「この先だ」 指差すが、行こうとはしない。 「自分のお墓もここがいいですか」 私は何度もこの質問をぶつけた。中国人移民の古い世代には、自分が死んだら、たとえ遺骨や遺灰だけでもいいから祖国に帰りたいという願望が根強くある。 「そんなことを聞くもんじゃないよ。華人は嫌がるよ」 そう言って、雪深い道をずしずしとよろけながら歩いて行ってしまった。
関 卓中(映像作家)/斎藤 栄一郎(翻訳家・ジャーナリスト)