ポール・キング監督、ヒュー・グラントへのウンパルンパ役オファーは短文メールで。「すぐに『了解』と返信が来た」
「チャーリーとチョコレート工場」で有名な工場長ウィリー・ウォンカの“夢のはじまり”を描く『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』が公開中だ。若き日のウォンカ役をティモシー・シャラメが演じるほか、オレンジ色の小さな紳士、ウンパルンパ役のヒュー・グラント、オスカー女優のオリビア・コールマンら注目キャストが集結。プロデューサーを務めたのは、あの「ハリー・ポッター」シリーズを手掛けたデイビッド・ヘイマンで、監督が「パディントン」シリーズのポール・キングだ。 【写真を見る】緑の髪にオレンジの肌のウンパルンパを扮するのはヒュー・グラント!監督がオファーの裏話を明かす ロアルド・ダールのベストセラーが生んだ、“不思議キャラ”のウィリー・ウォンカ。チョコレート職人として自分の店を出そうとする彼の若き日を、オリジナルストーリーとして完成させたポール・キング監督。観る人を楽しませ、幸福感をもたらせる展開には、「パディントン」同様、彼の真骨頂が発揮される。ティモシー・シャラメら俳優たちとの関係やミュージカルシーンの演出、そして作品に込めたメッセージなどを、キング監督に聞いた。 ■「コメディと感動の要素を揃え、誰もが楽しめる映画を作ることは私の方向性」 プロデューサーのデイビッド・ヘイマンとは、「パディントン」2作でも一緒に仕事をした仲。キング監督は、その信頼関係から語り始めた。 「デイビッドとの仕事は今回で3度目。かれこれ12~13年くらいの付き合いですが、脚本段階から自分たちがどんな映画を作りたいのか、時間をかけて相談できる相手です。彼は脚本に鋭いセンスを持っているのです。このような作品は撮影も、編集も長い時間をかけるので必ず袋小路に入る瞬間もあります。時には、思い入れが深いシーンや演技、セリフを削る選択にも迫られます。そんな時デイビッドは初心を思い出させてくれ、一歩引いた視点からアドバイスを与えてくれるのです」。 「パディントン」2作の成功によって、この『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』の監督を任されたのは明らか。キング本人にとってこの流れは、自身の作家性だと感じているのだろうか。 「たしかに『パディントン』の監督をしていなければ、いまの私のキャリアはなかったと思います。コメディと感動の要素を揃え、誰もが楽しめる映画を作ることは、私の方向性だと断言しましょう。『隣の芝生は青い』という格言もあるように、私にもほかのジャンルを試したい気持ちはあります。ただホラーとかは絶対に無理なので(笑)、現在の流れには満足しています」。 ■「ヒュー・グラントはオープンな性格で、自虐的な役も喜んで受け入れるタイプ」 夢と希望にあふれ、少しだけ悲しみも抱えた若き日のウォンカ。映画を観る人に共感を与えるうえで、キングが最適だと考えたのがティモシー・シャラメだったという。 「初めて観たティモシーの作品はドラマ『HOMELAND/ホームランド』で、特に強い印象はなかったのですが、次に観た『君の名前で僕を呼んで』には打ちのめされました。その演技は、まさに“真実”を伝え、エモーショナルだったからです。同時に、これは稀な奇跡かもしれないと思いつつ、さらに『レディ・バード』を観たら、まったく違うシニカルでファニーな役を見事に演じていて、この世代の俳優で特別な才能を持っていると確信できました。本作には歌とダンスの要素もありますが、ティモシーは高校時代にミュージカルに出演した経験があります。その映像をYouTubeで確認して、彼なら大丈夫だと安心しました」。 そしてロアルド・ダールの原作や過去の映画化でも強烈な印象を残したウンパルンパ役は、キング監督と『パディントン2』でも組んだヒュー・グラントに託された。 「ヒューと私には信頼の絆があるので、今回のキャスティングも順調でした。まあ私に対する彼の本心はわかりませんが…(笑)。とにかく『ウンパルンパを演じてみたくない?』と短いメールを送ったら、すぐに『了解』と返信が来ました。基本的にヒューはオープンな性格で、自虐的な役も喜んで受け入れるタイプ。『パディントン2』でもそういう役でしたし、次回作では馬の役でもオファーしようと思っています(笑)」。 ■「特定のカラーを際立たせることは、観客の感受性を刺激する大きな武器になる」 この『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』は、とにかくカラフルな映像が魅力で、観ているこちらは魔法にかけられた気分になっていく。こうした色使いにキングの特徴が表れているような気もする。 「映画の中で特定のカラーを際立たせることは、観客の感受性を刺激する大きな武器になります。監督によっては、そこまでカラーを意識せず、単にパレットから絵の具を選ぶ感覚の人も多いでしょう。でも私にとってカラーは“暗号”のようなもの。『シェルブールの雨傘』が大好きなのは、主人公たちの関係が衣装やセットの色使いで表現されているからです。黄色のカーディガンや青いスカーフによって、観客が気づかないところでストーリーを伝えます。そのようにカラーを正しく、綿密に使うことが大切なのです」。 さらに細部にもポール・キングのこだわりがあふれている。なかでもウォンカが自身の故郷から“チョコレートの町”へ運んできたトランクに注目だ。それはチョコレートの“ポータブル工場”。フタを開けると材料や道具が並び、どこにいてもチョコレートを作ることが可能。このポータブル工場はマニアックな心を刺激する。 「私はミニチュアの世界が大好き。あの小さな“工場”の箱はCGではなく小道具のスタッフと共に何か月もかけて作り上げました。有能なスタッフの技術の賜物です。私が愛するミュートスコープ(19世紀の映画の装置)も、箱の中で使いました。もちろん実際にチョコレートを作るのは不可能ですが(笑)、本当にすばらしい装置が完成したと満足しています。とかく映画はスケール感や壮大なアドベンチャーを求めがちですが、注意して確認できる細部に大きなパワーが宿っていることもあるのです」。 ■「今回のウォンカは20代、時代はミュージカル映画の黄金期の1940年代に相当」 本作が観る者のテンションを高めるのは、要所のミュージカルシーンだが、なぜ歌とダンスを盛り込んだのか?キング監督には、一つの理由があった。 「ウィリー・ウォンカの最初の映画化は1971年でした(『夢のチョコレート工場』)。1971年当時のウォンカから逆算すると、今回のウォンカは20代なので時代は1940年代に相当します。当時、ハリウッドはミュージカル映画の黄金期でした。私自身もMGMミュージカルの大ファンなので、光に向かう蛾のように、このアイデアに吸い寄せらたのです(笑)。『レ・ミゼラブル』などが時代を超えて受け継がれるように、私は40年代のミュージカルの精神を広く知らしめたくなりました。そこで『ヘイル、シーザー!』で当時のダンスを再現した偉大な振付師のクリストファー・ガテリに協力を依頼し、本格的なミュージカル演出に挑んだのです」。 ポール・キング監督には今後、ミュージカル黄金期の大スター、フレッド・アステアの人生を描く作品も予定されているが、それについては「まだ声をかけられているだけの状況で、脚本も仕上がっておらず、どうなるかわかりません」と語りつつ、意欲は満々のようだった。 最後に『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』を、日本の観客にどう受け止めてほしいか、キング監督からメッセージをもらった。 「先日、この映画を観た方からステキなコメントをいただきました。『これはいまだからこそ、観るべき作品だ』というものです。世界中が多くの困難や不安で満ちあふれている現在、本作が映画館で人と人の心を結びつける役割を果たしてくれることを心から願っています」。 この言葉どおり、若き日のウィリー・ウォンカの運命は、映画という枠を超えて、あらゆる人に勇気と優しさを与えてくれるはずだ。 取材・文/斉藤博昭
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