【森永卓郎の本音】あまりに酷い減税アピール
5月22日の参院予算委員会で、立憲民主の辻元議員が6月の給与明細に定額減税分を明記することは、義務なのかと岸田総理に尋ねた。総理は、財務省令で定めたので、義務だと答えた。辻元議員は、だったら増税や増負担のときにも給与明細に明記すべきと追及したが、総理は明言を避けた。 そもそも今回の定額減税は、おかしな制度設計になっている。地方税に関しては6月分を徴収しないこととして、それでも減税しきれない部分を残り11か月で均等に減税していく。所得税に関しては、6月分で引けるだけ引いて、残りは7月以降減税額に達するまで税負担を減らす。つまり、大部分のサラリーマンは6月の所得税・住民税がゼロになる。その減税額を給与明細に明記せよと岸田総理は言い出したのだ。解散総選挙を睨(にら)んだアピールとしか考えられない。 企業の給与計算担当者は、大混乱だ。支給日まで時間がない中で、プログラム修正に大きな時間を割かなければならないからだ。サラリーマンも、定額減税申告書の作成で余計な作業を強いられている。岸田総理の「減税アピール」のために大変なコストが強いられているのだ。 もっと驚くべきことは、年収2000万円以上のサラリーマンの取り扱いだ。彼らは定額減税の対象者ではない。にもかかわらず、定額減税申告書の提出が義務付けられている。実は、彼らにも6月の住民税ゼロといった定額減税が実施されるのだ。 もちろん減税対象外だから、その減税分は年末調整の際に増税で回収される。これは定額減税ではなく、6か月間の「定額融資」だ。本来であれば、今回の物価高対策は給付金で行えば問題がなかった。ここまで無理して実施する「減税アピール」に国民はだまされてしまうのだろうか。(経済アナリスト・森永卓郎)
報知新聞社