<政党不信の底流>「生けにえにもなれず」 離党の安倍派幹部、進まぬ政治改革に憤り
自民党総裁選(27日投開票)は、派閥の政治資金パーティー裏金事件で明るみに出た「政治とカネ」の問題にどう向き合うかが問われている。大半の派閥が解散を決め、各候補は口々に政治改革を訴えるが、事件で窮地に立たされた「裏金議員」たちは何を思うのか。 安倍派座長だった塩谷立(りゅう)・元文部科学相(74)は事件後、離党勧告の処分を受けて離党し、今月10日に次期衆院選への不出馬を表明した。「何のための処分だったのか」。事件が抜本的な政治改革につながらない現状に、塩谷氏はやるせない思いを募らせる。 総裁選が告示された12日。党本部で開かれた演説会では、9人の候補者が「裏金議員」の処遇や党の信頼回復について論戦を交わす場面があった。 「単に派閥の問題ではなく『政治とカネ』、あるいは政治全体の問題だ。総裁選になって今ごろ議論されている。もっと早くやるべきだった」 この日、永田町の議員会館で取材に応じた塩谷氏は苦々しい表情を浮かべた。 ◇「仕事をすればカネがかかる」構図 塩谷氏によると、政治活動をする上で年間の収支は、議員ごとに差はあるものの、おおむね支出が6000~7000万円程度。このうち4000~5000万円程度は公費で賄えるが、差額は自腹だという。 支出で大きな割合を占めるのは他の議員と同様に秘書の人件費だ。 塩谷氏が代表を務める自民党静岡県第8選挙区支部の政治資金収支報告書(2022年分)によると、人件費は約3400万円。塩谷氏は私設秘書を7人ほど雇っており、単純に見ても秘書1人当たり年間500万円弱の経費がかかっている計算だ。 塩谷氏は「我々が熱心に有権者の声を聞こうと思えば秘書の数は多い方が良いし、選挙活動にもつながる。仕事をすればカネがかかるというかね。(だからこそ)我々の活動内容を国民にできるだけ知ってもらうことが必要だ」と強調する。 裏金事件を巡り、塩谷氏はまずトップである岸田文雄首相が責任を取る姿勢を示し、政治改革を進めるべきだと主張してきた。 首相は1月、自らが率いた旧岸田派の解散を宣言したが、他の派閥については言及せず、派閥によって対応が分かれた。首相は衆院政治倫理審査会(政倫審)にも出席したが、裏金作りが続いた経緯は明らかにならず、キーマンとされた森喜朗元首相への聴取もおざなりだった。 「首相はパフォーマンスに終始した。自分だけがいい子になった。保身だ」。塩谷氏の口調は厳しい。 ◇安倍派を大量処分、支持率回復せず 当選10回。文科相や党の総務会長、選対委員長などを歴任した塩谷氏だが、事件発覚時に安倍派の「座長」だったことで矢面に立たされた。処分が最も重い「離党勧告」に決まると、強く反発した。 「まるでスケープゴート(生けにえ)」と記した弁明書を党に提出。安倍派を切り捨てて事態収拾を図るのではなく、「政治とカネ」を巡る抜本的な課題解決に取り組むよう求めた。 しかし、党は主張を聞き入れず、塩谷氏を含む39人を処分。国会では改正政治資金規正法が成立したものの、内閣支持率が回復することなく、首相は退陣表明に追い込まれた。 塩谷氏は「私はスケープゴートにすらなれなかった」と憤る。 ◇総裁選を転機にできればければ「下野も」 4月の離党後、塩谷氏は次期衆院選を見据えて「無所属の人」と書かれたのぼり旗を掲げ、選挙区の静岡県で街頭に立ち続けたが、有権者の目は厳しかった。政党交付金も断たれて政治活動は暗礁に乗り上げた。 今後は「全くの白紙」だという塩谷氏。古巣への思いを聞くと、こうつぶやいた。「自民党には生まれ変わってもらいたい。山積する課題を解決できる政党がないと、日本がどうにかなってしまう。総裁選を転機にできないと、また野に下ってしまう可能性もある」【畠山嵩】