天下一品×一蘭×一風堂「こってりラーメン三国志」最強の一杯はどこだ?《最新ビジネスレポート》
とんこつラーメンを食べながら、ルイボスティーが飲み放題なのが嬉しい。 JR立川駅(東京)に隣接するルミネ立川の8階に、「一風堂 ルミネ立川店」はある。黒を基調としたオシャレな店内にはジャズが流れ、女性客で賑わっている。大きなロゴを冠した看板がなければ、まるでカフェのような装いだ。 【図解】「一」のつくラーメンチェーン頂上決戦!一目でわかる「最新の勢力図」 キッチン近くに設置された大型モニターにはニューヨークやロンドンなど世界各国の店舗の営業風景が映っている。卓上のタッチパネルを操作しながら、フードジャーナリストの長浜淳之介氏が話す。 「ポリフェノールが豊富に含まれるルイボスティーをたくさん飲めるから、とんこつラーメンのカロリーの一部を相殺できる気がしなくもありませんね(笑)。おしゃれな内装とBGM、臭みのないクリーミーなスープと丁寧な接客は、女性客だけでなく海外の人々にも大人気です」 ニューヨークにある店舗ではウェイティングバーが用意されており、席が空くまで酒を楽しみ、前菜からメインのラーメンを食べてデザートで締めるのが一般的なんだとか。海外の一風堂は、客単価が一人1万円近くになることもあるという高級レストランなのである。 かつて「脂っこくてクセのある、おじさんの食べ物」という認識が強かったとんこつラーメンのイメージを、一風堂はどのように変化させたのか。 「創業者の河原成美氏(71)はもともと、博多の天神でレストランバーを経営していたそうです。そこに来ていた女性客に、河原氏は『なぜとんこつラーメンを食べないのか』と聞いた。すると彼女たちは、『博多ラーメンの店は汚くて臭くて怖いから』と答えた。そこで河原氏は、BGMや内装にこだわり、なるべく臭みが出ない”ソフトなとんこつラーメン”の開発に着手した。『赤丸』『白丸』といったキャッチーな商品名も、女性客の支持を得やすかったのでしょう」(飲食業プロデューサーの須田光彦氏) こうして’85年に創業した一風堂に転機が訪れたのは、’94年のこと。新横浜ラーメン博物館に、全国有数の名店として出店を果たしたのだ。’97年には『TVチャンピオン ラーメン職人選手権』(テレビ東京系)で優勝。その名は全国に轟(とどろ)いた。しかし、河原氏はこの結果に甘んじることはなかった。次なる挑戦を志したのだ。 「’03年、上海の小南国グループと合弁会社を設立。翌’04年に『78一番拉麺』を出店しました。河原氏は家族を連れて上海へ移住するほど力を入れていましたが、店名を『一風堂』にできなかったばかりか、小南国に経営権を奪われ、ラーメン作りのノウハウも奪われてしまった。一風堂の公式ホームページには『’08年、ニューヨークに海外初進出』と記載されていますが、実はその5年前に手痛い失敗をしていたのです。この経験があったからこそ、’08年にアメリカ、’14年にタイ、フィリピン、インドネシア、イギリス、’16年にフランスなど、順調に海外展開を成功させることができた」(同前) 現在、一風堂は、香港最大の外食企業『マキシム』とタッグを組んでアジアに店舗を展開。海外店舗数を142まで伸ばしている。これは日本のラーメンチェーンの中でトップだ。 一風堂が女性と海外をターゲットに勢力を伸ばしたのに対し、圧倒的な商品力で国内のみに219店舗を展開しているのが、京都発祥の「天下一品」だ。 「現会長の木村勉氏(88)が’71年に創業。きっかけは勤めていた会社の倒産でした。当時の所持金は3万7000円。拾い集めた廃材を板金職人の友人に組み立ててもらって屋台を作ったそうです。醤油ラーメンから始めた後、”また食べたくなる味”を目指して、独自のスープの開発に着手。現在と同じ鶏ガラと野菜を組み合わせた天下一品の代名詞『こってり』を生み出したのです」(経済ジャーナリストの高井尚之氏) ◆こだわりの天一、効率の一蘭 しかし、天下一品の全国展開への道は険しかった。創業から約30年が経過した’00年でも、都内には2~3店舗しかなかったという。しかし、そんな天下一品に追い風が吹く。 「’00年代以降は『六厘舎』など濃厚つけ麺が、その後は家系や二郎系が台頭するなど、消費者は濃い味を求めていった。そんな中で、とんこつ系でも背脂系でもない天一の『こってり』はオンリーワンの存在として注目されました。レンゲが立つほど濃厚なスープですが、ドロドロの正体は鶏ガラのコラーゲンで、胃もたれしない。若者から中高年まで長く食べ続けられるんです。マーケティング巧者で器用な一風堂とは異なり、天下一品は『こってり』を引っ提げ、マニアに支えられながら、誰にも迎合せず愚直に突き進んでいます」(ラーメン研究家の石山勇人氏) 唯一無二のスープの一本足打法でラーメンファンを病みつきにした天下一品の歩みはゆっくりだが、力強い。 一風堂と天下一品という200店舗超えの両者には、年商で大差をつけられているライバルがいる。「ブランディング」を武器にする博多発祥のとんこつラーメンチェーン「一蘭」だ。一風堂の昨年の売り上げが261億円、天下一品が115億円だったのに対し、一蘭はダントツの355億円。しかも、3者の中で最も少ない86店舗でこの売り上げを叩き出している。1店舗あたりの売上高は単純計算で約4億1300万円。カップ麺や棒状ラーメンなど物販の売り上げはあるにせよ、圧倒的な数字だ。好業績の要因はどこにあるのか。 「唐辛子をベースに30種類以上の材料を調合して熟成させた『赤い秘伝のたれ』がスープの中心に浮かぶ『天然とんこつラーメン』は、1杯あたり980円。トッピングのついた『ICHIRAN5選』は1620円、替え玉は210円と一般的なチェーン店と比べると価格が高い。2者と比べて餃子や炒飯などのサイドメニューがないことも特徴です。ラーメンのみに絞ることで調理のコストも滞在時間も抑えられます。また、顧客は『味集中カウンター』と呼ばれる仕切りのある”個室カウンター”に座るので、友人と来ても食後に無駄話ができません」(自作ラーメン研究家の神田武郎氏) たしかに客の回転率はいいに違いない。とはいえ、サイドメニューに乏しく食事中の会話も楽しめないとあれば、普通なら客足が遠のいてしまいそうなものだが……。 「一蘭はプレゼンテーションがポジティブ。『天然とんこつ』とメニューにありますが、野生の豚を使っている店はありません(笑)。 『インスタントのとんこつエキスを使用していない』ことを天然と謳うことで、『なにか違う』と思わせることができる。『サイドはありません』ではなく、『ラーメン一本勝負』と言えば、こだわりを感じさせられる。 また、注文用紙に書いて出すというスタイルは、シャイな若者や言葉の通じにくいインバウンドの客でもオーダーしやすい。高い収益を得られるハード面が整えられた上で、それをこだわりに昇華するポジティブなプレゼンにより無駄の少ない経営を実現しています」(同前) 売り上げだけを見れば一蘭が優勢だが、三者三様の強さがある。相手は国内か、世界か、ラーメンマニアか、若者か? ラーメン業界の三国志が、アッサリと終わることはないだろう。 『FRIDAY』2024年5月24日号より
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