「500日間、たった一人の洞窟生活」を成し遂げた女性─何が彼女を駆り立てたのか?
2023年4月、光の入らない地下洞窟で、50歳の女性が外界から完全に隔離された状態で500日を過ごしたというニュースが報じられた。過酷な日々を乗り切り、洞窟で過ごした時間を「何物にも代え難い」体験だったと語った彼女は、世界中から称賛を浴びた。 【動画】500日の地下洞窟生活を終えたばかりのベアトリス・フラミニ だが実のところ、彼女が経験したことはそれほど単純ではなかった。孤独な500日間は、間違いなく彼女の心身に暗い影を落とした。米誌「ニューヨーカー」が明かす、彼女の挑戦のすべてとその代償とは──。(この記事は1回目/全7回)
初めての洞窟で味わった「愛の感覚」
マドリードで生まれ育ったベアトリス・フラミニは子供の頃、独りで寝室にこもって過ごすことが多かった。「その時間が本当に好きでした」と彼女は言う。寝室では、人形に本を読み聞かせたり、黒板に字を書いて算数や歴史を教えたりして遊んでいた。 成長してからは、たまにインディー・ジョーンズのような大学教授になることを想像したという。「本当の自分」になるために、教室を飛び出すような人になるのだと。 フラミニが初めて洞窟を訪れたのは、1990年代初頭のことだった。当時、スポーツインストラクターを目指して勉強中だった彼女は、マドリード北部にある旧石器時代の彫刻で知られるレゲリージョ洞窟に、友人と車で訪れた。 「私たちは日曜日まで洞窟で過ごし、授業や仕事があったので仕方なく戻ってきました」とフラミニは言う。 洞窟内は暗闇に包まれていたが居心地がよく、岩壁に囲まれながら、彼女は圧倒的な愛の感覚を味わった。「どんな感じだったか、とても言葉では言い表せません」 卒業後は、マドリードでエアロビクスを教えた。カリスマ性と熱意あふれるフラミニは、多くの生徒を魅了した。2013年、40歳を迎える頃には、伴侶も車もマイホームも手に入れていた。 それでも、何か物足りなさを感じていた。フラミニは経済的な安定にはあまり興味がなく、子供も欲しくなかった。彼女は実存的な危機感を覚えた。「今日か明日、あるいは50年以内に死ぬことはわかっている。その前に、人生でやりたいことは何だろう?」と自問した。 即座に出た答えは、「リュックサックをつかんで山に行き、そこで暮らすこと」だった。