脅迫のジェンダー本、政治家や医療関係者、当事者らが読む「差別つながる要素ない」
4月3日に発売された翻訳本「トランスジェンダーになりたい少女たち SNS・学校・医療が煽る流行の悲劇」(産経新聞出版)。放火を示唆する脅迫メールが送り付けられたこともあり、一部書店では現在も販売を見送っている。国内での発売から約半月。欧米で先行する、性別違和を訴える若者の性別移行を進める「ジェンダー肯定医療」の負の側面も指摘した内容を巡り、国内のトランスジェンダー当事者や識者からはさまざまな声が上がっている。 【写真】岩波教授「批判する人は中身読んでいない」「批判のための批判をしている印象」 ■客観的な視座 「一方的ではなく非常に客観的な視座で描かれている。今まで光が当たっていない分野だったが、かなり事態が客観化されるのではないか。『差別助長につながる』要素はない」 自民党の有志議員でつくる「全ての女性の安心・安全と女子スポーツの公平性等を守る議員連盟」の片山さつき共同代表は同書についてこう指摘する。 同書は米ジャーナリスト、アビゲイル・シュライアーさんが手術などで回復不可能なダメージを受けて後悔する少女らを取材し、2020年6月に米国で発売された著書の翻訳本だ。フランス語、ドイツ語などに翻訳された。 日本語版はKADOKAWAが昨年末、発行を予定したが「(心と体の性が一致しない)トランスジェンダーへの差別を助長する」といった批判を受けて中止された。4月3日に発行した産経新聞出版にも脅迫メールが届いた。 ■トランスジェンダーへの逆風を防ぐ 性別違和を訴える若者に対し、倫理的でエビデンスに基づく医療の推進を目指す「ジェンダー医療研究会」の加藤祥子共同代表は同書について「『ジェンダー肯定医療』の負の側面を明確に問題提起した本が事実上初めて日本で発売された」と評価する。「過去の研究では性別違和を訴える児童の8割で後に性別違和が消失したというものがある。思春期の性別違和は一過性のこともあると理解が進むきっかけになってほしい」と期待も込める。 加藤氏は、同書がトランスジェンダー差別につながるといった見方にも首をかしげる。「むしろ、著書を通じてジェンダー肯定医療に慎重な雰囲気ができれば、若年者への医療虐待を防ぐ結果になり、将来的な分断が防げるのではないか」と指摘。理由について「欧米では医療をめぐるトラブルが多発し、成長して手術を後悔した患者が医師や病院を相手に裁判を起こしたことなどがきっかけで、強い社会の反発が(慎重さに欠くトランスジェンダー支援団体に対して)起こり、深い分断と対立を生んでいる」と説明する。 ■思春期の変身願望