「自分の台詞に感動しちゃって」NG連発でも好かれる国民的俳優。“大物”に共通する人柄の良さとは
三船敏郎にもいい思い出しかない
丹古母は、丹波と同じく、三船敏郎にもいい思い出しかない。 三船主演のテレビ時代劇に出演したとき、丹古母は百姓一揆を起こす百姓の役で、真冬の曇天下、他の百姓役の面々と、素足に粗末なわらじの格好でがたがた震えていた。それを見た素浪人姿の三船は、衣装部の担当者を呼び出し、「足元は映らないんだから、みなさんに足袋を用意しなさい」と指示して、百姓役全員に時代劇用の足袋を履かせてくれた。大部屋出身の百姓役たちはみな恐縮し、感激した。 三船プロダクションから来る仕事は、毎回至れり尽くせりでありがたかった。ギャラは即座に払ってくれるし、端役に配られる仕出し弁当も当たりはずれがなくウマかった。 ある日、東京・世田谷の三船プロを訪ねると、事務所の外で、ホウキとチリトリを手に黙々と掃除をしている中肉中背の男性がいる。丹古母が、芸能界のしきたりどおり、「おはようございます!」と元気よく挨拶したら、「ご苦労!」と言われ、聞き覚えがある声に顔を見ると、三船敏郎その人でぶったまげた。 「やっぱり頭(かしら)になる人は違う」 丹古母は、丹波にも共通する“大物”の人柄の良さに触れた気がした。
野村 進(ノンフィクションライター)