西日本新聞　社説

　物価高に苦しむ家計の支援と、低迷が続く日本経済の成長戦略をどう描くか。経済政策は衆院選の大きな争点だ。　各党の公約には物価高対策や最低賃金の大幅引き上げ、所得税の控除拡大、消費税の減税や廃止といった家計に関わる政策が並ぶ。 　有権者の関心は高い。各党は財源を含む実現への道筋を示すべきだ。 　世界経済の成長から取り残された日本経済の再生を急ぎたい。世界3位だった米ドル換算の名目国内総生産（GDP）は2023年にドイツに抜かれ、近いうちにインドに追い越される。「経済大国」の看板は色あせてしまった。 　豊かさの目安とされる1人当たり名目GDPの状況はより深刻だ。円安の影響で12年からの10年間で約3割も減少し、経済協力開発機構（OECD）での順位は12年の10位から22年は21位に下がった。 　これが、金融緩和を柱とする第2次安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」を続けた結果である。 　大企業の業績が過去最高を更新しても、景気は上向かない。企業が人件費を抑え、GDPの半分強を占める個人消費が振るわないためだ。 　国民の暮らしを底上げし、経済を浮上させるには給料の大幅上昇が必要だ。生産性を高め、給料を上げる政策を各党で競ってほしい。 　石破茂首相は公示前の党首討論で「コストカット型経済を是正する」と述べた。肝心の経済政策は前政権を引き継ぐのが基本方針である。 　前任の岸田文雄氏は春闘を後押しして平均賃上げ率を押し上げたが、実質賃金は5月まで過去最長の26カ月連続マイナスを記録した。 　6月にプラスに転じたのもつかの間、8月はマイナスに戻った。前政権の踏襲では局面の打開は難しい。 　策定中の経済対策の財源と規模について、首相は「昨年の補正予算を上回る大きな予算を成立させたい」とアピールする。中身を示さず規模だけ強調されても、有権者は評価しようがない。 　経済対策には電気・ガス代やガソリン料金の補助が入る見通しで、与党の自民党と公明党が物価高対策の公約に盛り込んだ。大企業や富裕層にも恩恵が及ぶ一律補助に巨費を投じるのではなく、低所得世帯など真に困っている人に対象を絞るべきだ。 　海外に見劣りする最低賃金の引き上げは多くの政党が公約した。与党は20年代に全国平均で時給1500円とするのが目標で、野党には同等かそれ以上の主張がある。 　現在の全国平均は1055円だ。5年間で500円近く引き上げるには、中小零細企業に対する思い切った支援策が欠かせない。 　アベノミクスで広がった格差の是正は急務だ。与野党ともに選挙向けの大風呂敷で終わらせることは許されない。