日本の音楽界が無視してきた「ミニマル・ミュージック」の重要性 久石譲
黒木瞳がパーソナリティを務めるニッポン放送「黒木瞳のあさナビ」(11月28日放送)に作曲家・指揮者・ピアニストの久石譲が出演。映画音楽の制作について語った。
黒木瞳が、さまざまなジャンルの“プロフェッショナル”に朝の活力になる話を訊く「黒木瞳のあさナビ」。11月27日(月)~12月1日(金)のゲストは作曲家・指揮者・ピアニストの久石譲。2日目は、ミニマル・ミュージックについて― 黒木)久石さんに関して、「ミニマル・ミュージックに触れたときの衝動が大きかった。そこからまた音楽の方向性が変わった」という記事を読んだのですが、具体的に教えていただけますか? 久石)ミニマル・ミュージックとは、短いフレーズを何回も繰り返し、それが少しずつずれていく。微細な変化を聴かせていく方法論です。テリー・ライリーさんという伝説的な作曲家がいるのですが、彼やフィリップ・グラスさん、スティーヴ・ライヒさんなどによって、1965年ぐらいにアメリカで始まったものです。ヨーロッパでも同じように、最小限のパターンで音楽をつくる流れが始まっていました。 黒木)ヨーロッパでも。 久石)行き過ぎた不協和音の現代音楽に観客がついていけないと思った時期に、シンプルなものが世界中で始まったのです。それがロックミュージシャンなどにも影響を与えたのですが、残念ながら、日本ではこの流れがほとんどありませんでした。 黒木)どうしてもヨーロッパ音楽の方に目がいって、アメリカの方へ向かなかった。 久石)そうなのです。これだけ世界中の現代の作曲家に影響を与えているのに、日本の音楽界は無視してきたのですよ。そのため、「私がやらなければいけない」という思いで『ミュージック・フューチャー』という、世界の最先端の音楽を紹介するコンサートシリーズを行いました。 黒木)それが久石さんの美しいメロディーになっていくのですね。
久石)映画音楽を担当し、メロディーを書くようになったのですが、メロディーだけを書いていると、ただのエンターテインメントになってしまうのです。しかし、ミニマルの方法と合体させる、あるいは半分混ぜると、幅広く表現できるのです。 黒木)ミニマル・ミュージックと合体させると。 久石)「コンポーザー」は「作曲家」という意味ですが、「コンポジション」という言葉には「構成する」という意味があります。あるフレーズが4~5秒あったり、普通の8小節のメロディーがあるだけでは、音楽になりません。それが4~5分、シンフォニーになると1楽章で15分ぐらいになります。どうやって構成していくか。作曲はロジスティックに考える必要があります。感覚だけで勝負しようとしても上手くいきません。 黒木)久石さんは指揮者も務めていらっしゃいます。ご自分の曲ではないものも担当するわけですが、そこで新しい発見もありますか? 久石)インプットしなければ、アウトプットできないですよね。一生懸命、作曲してアウトプットばかりしても、刺激を受けていないと出てきません。例えばブラームスを指揮する場合、私は作曲家の目線でしか譜面を読まないので、「作曲がここで詰まったな」、「手がなくなったから次にいったぞ」というような読み方をしてしまうのです。 黒木)なるほど。 久石)例えば、ビオラとチェロが3度のハーモニーで綺麗に歌っているけれど、なぜか低い楽器のチェロが上で、ビオラが下を弾いている。チェロのような大きな楽器が高いところを弾くと、音がすごく張るわけです。そうするとメロディーが強くなる。「これはいいな」というような刺激はありますね。そういう小さなヒントから、現代音楽をやると「この使い方は上手いな」と、何らかの刺激があります。 黒木)いろいろなところでインプットなさっているのですね。 久石)好きでやめられないということかな。そういうところはあります。