矢野沙織、菊地成孔と語り合った最新アルバム『The Golden Dawn』 プレミアムイベントをレポート
デビュー20周年を迎えたジャズサックスプレイヤー・矢野沙織の最新アルバム『The Golden Dawn』のCD購入者を対象としたリリース記念プレミアムイベントが、12月21日・東京・ヒューマントラストシネマ渋谷で開催された。 【画像】矢野沙織『The Golden Dawn』プレミアムイベント写真一覧 ファンが待ちわびているなか、矢野沙織と『The Golden Dawn』のストリングアレンジを手掛けた菊地成孔が登場。もともと親交の深いふたりが、同作の制作エピソードを語り合った。 1940年代のアメリカで生まれたビ・バップが、時代を重ねる毎に端正で静かにプレイするものになった旨を「飼い慣らされていった」と表現していた菊地。チャーリー・パーカーを敬愛する矢野も、現代の多くの人が抱くビ・バップに対するイメージに違和感を覚えているのだという。そんなふたりのビ・バップ観が『The Golden Dawn』の土台となっていることが、交わされるさまざまな言葉から伝わってきた。 アルバムを制作するにあたって「ストリングスを入れたいです」と矢野から伝えられた菊地は、『Charlie Parker with Strings』(1995年)をイメージしてサウンドアレンジの構想を練ったが、大人数の編成でレコーディングするのは予算の点でも厳しい面がある。ストリングスのカルテットで理想のサウンドへと辿り着くために知恵を絞った菊地だったが、レコーディング当日は39℃の高熱。ふらふらだった彼の様子を思い出しながら、「かわいかったですよ(笑)」と言った矢野は、「菊地さんならではの攻撃性があります、ありがとうございます」と各曲の仕上がりにとても満足していた。
イベント後半では映画館の音響設備でアルバムを視聴
アルバムの制作過程に関するトークのあとは、映画館である会場の音響設備を使って楽曲を鑑賞。菊地がストリングスアレンジを手掛けた「Rocker」「Autumn Leaves」「I'm In The Mood For Love」を聴きつつ、印象についてふたりが語り合う。 「Rocker」は、チャーリー・パーカーの楽曲のなかでも矢野が憧れを抱いているもののひとつ。今作に収録された同曲のアレンジが、チャーリー・パーカーならではの緊張感、不安定な雰囲気に通ずるニュアンスを醸し出しているのがお気に入りのポイントだと矢野は語っていた。続いて「Autumn Leaves」。アルバムに収録されたのは、本番前のテストテイクなのだという。修正を重ねることでは得られないニュアンスが、どこか野趣のある矢野のプレイを生む大切な要素だと再確認することができた。 そして最後に聴いたのは、矢野の師匠であるジェームズ・ムーディが大好きだった「I'm In The Mood For Love」。「ストリングスを入れて温かくするのは簡単なんです。背筋に氷柱を刺したのは、さすが菊地さんです」と、彼女ならではの独特な表現で賛辞を贈っていた。 年明けの1月31日には、矢野沙織20th『20th「The Golden Dawn」at Billboard Live YOKOHAMA with Strings(conducted by 菊地成孔)』が開催される。菊地が指揮を務め、ストリングスも加わった演奏も披露されるこの公演にファンが寄せている期待はとても大きい。『The Golden Dawn』に収録された楽曲の魅力を深く噛み締められる機会となるはずだ。
田中大